世間は選挙一色だが別の話題。アマゾンで購入を繰り返すと、購入履歴から趣味嗜好が分析され、関連商品の「お薦めメール」が届くようになる。しかし、消費者はそれを疎ましく思わずアマゾンの利用を継続する。アップルやグーグル、フェースブックも同様である。
個人情報を事業者に渡すことについて消費者は不安を感じるか。高崎晴夫氏の論文『パーソナライズド・サービスに対する消費者選好に関する研究:プライバシー懸念の多様性に着目した実証分析』は興味深い。
4422名から回答を得たウェブ調査の結果、プライバシーポリシーの認知度が高いと利用意向を弱めることが明らかとなった。プライバシーポリシーは最初の利用の際に提示される利用規約の中にあるが、消費者は利用規約を読まずに「承諾する」をクリックする。これに対して、プライバシーポリシーをはっきり提示したほうが、かえって利用意向が下がるという研究結果で出た。
アマゾンなら変なことはしないだろうと信頼が先に立ち利用規約など読まずに使い始め、その結果、個々人はプロファイリングされてアマゾンに利用されるが、消費者はそれに疑問を感じないというわけだ。
アマゾンのように個人情報を囲い込み利用するのが今までのネットビジネスであった。それではIoT時代になったら個人情報はどのように扱われるのだろうか。IoT機器には路側に置かれた交通量センサのように公共的データを収集するものから、腕や胸に付けて脈拍や血圧といった生体情報を収集するバイタルセンサのように完全に個人的な情報を扱うものまである。しかも、公共的あるいは半公共的な情報と個人情報が組み合わされる形で、個々人に向けてサービスが提供されるようになる。それでは、サービスが魅力的なら消費者は生体情報を提供するだろうか。
自律分散型で相互接続されたオープンなデータ取引市場を作ろうという試みが始まっている。経済産業省が主導するIoT推進ラボが表彰したIoT情報流通マーケットプラットホーム「エブリセンスサービス」もその一つである。
「エブリセンスサービス」はエブリセンスジャパン株式会社が提供し、同社の真野浩氏が『情報管理』でオープンなデータ取引市場について説明している。
その要点は、株式市場における東京証券取引所のように、データの提供側からも収集側からも独立した中立的な取引市場を設置することである。取引市場は流通するデータの内容を解読・取得せず、一方で不正取引防止のため取引記録は保管する。真野氏の論文には農場とレストランの間でのデータ取引が例示されているが、こんなBtoB取引ならうまく機能しそうだ。
しかし、生体情報などを個々人が提供するようになるにはまだ壁は厚い。データ取引市場がアマゾン並みあるいは東京証券取引所並みの信頼を獲得するには、真野氏の論文にあるようなシステム構成の開発も重要だが、高崎氏が扱ったような消費者心理に関する研究も進める必要がある。