ウェブアクセシビリティを推進するオーストラリアに学ぶ

世の中選挙一色だが別の話題。オーストラリアはウェブでのアクセシビリティ配慮に熱心な国である。根拠となる法律は障害者差別禁止法で、同法の枠組みの下で政府が実行すべき戦略を政府人権委員会が2010年に発表している。それが「Web Accessibility National Transition Strategy」である。これによって、政府のウェブコンテンツは4年以内にウェブコンテンツアクセシビリティガイドライン第2版(WCAG2.0)が定めるレベルAAに準拠することになった。また、戦略の実施について連邦政府・各州政府それぞれのCIO(最高情報統括官)が責任者として指名された。

WCAG2.0は民間団体W3C/WAIが作成した技術基準だが、その後、国際標準化団体ISOで追認され国際標準になった。わが国でも和訳がJIS X8341-3として日本工業規格である。WCAG2.0は技術基準をレベルA、AA、AAAに分け、レベルAは守らなければ多くの利用者が迷惑する基本的な基準、レベルAAAは高度な基準とされ、レベルAAが準拠の目標として通常設定される。

2000年シドニーオリンピックの公式サイトから情報を取得できないとの申し立てが視覚障害者Bruce L. Maguireから人権委員会に出された。申し立ての根拠は障害者差別禁止法である。人権委員会は組織委員会に直ちにサイトを改修するよう命じた。オリンピックでは世界で始めての出来事であった。これには、パラリンピックが始めて公式に併催されたという事情も影響しているかもしれない。

障害者差別禁止法は民間企業にも適用される。スーパーマーケットColesは2013年にオンラインサイトを改修し、その結果利用できなくなった視覚障害者が人権委員会に訴えた。両者は2015年に和解しサイトは再改修された。人権委員会が2014年に発出した文書「World Wide Web Access」には、ネット上の事業者を含め広く公衆にサービスを提供する民間企業に政府の取り組みを拡大する必要性が強調されている。

わが国にも障害者差別解消法があるが、ウェブアクセシビリティの不具合を訴える機関が存在しない。これでは障害者差別解消法は理念法のレベルに留まってしまう。障害者の訴えを聞く組織を新設するか、障害者政策委員会にその役割を担わせる必要がある。今回の衆議院選挙でウェブアクセシビリティを含め、アクセシビリティに注目する政党が現れるよう期待する。