こんにちは、株式会社電力シェアリングCEOのNick Sakaiです。私は、最近ご縁があってある大手エネルギー企業のオープン・イノベーションを個人的にお手伝いをしています。エネルギー業界、特に電力IoTは、交通IoTと並んで大きなイノベーションが花開く分野であることは間違いなく、そこでアイデアを持つベンチャー企業と、大手企業のプラットフォームや有形無形の資産が融合するとWinWinの関係を構築して、とてつもなく面白いことになることもまた間違いがないのです。
ところがです。大企業とベンチャーのコラボ、俗にいうオープン・イノベーションは、どこの大手企業でもほとんど上手くいっておりません。どうしてなのでしょうか?BusinessInsiderJapanの塩野誠氏の記事「大企業はオープンイノベーションごっこから脱出せよ」ではこの点、非常に興味深い論考がなされていますので抜粋引用させていただきます。
企業が「オープンイノベーションを進める」と宣言し、メディアにも「同社はオープンイノベーションを進めていく方向」と中身が空でも記載されるような典型例は、
1)社外からビジネスアイデアを公募する。
2)米シリコンバレーのベンチャーキャピタル(VC)が運用するファンドに出資する。
3)大企業がオフィスを構える東京都内の一等地に起業家と「コラボレーション」する場をつくったりする。
このうち、
1)の社外公募については、本質的に自社のことを一番考えているのは自社である可能性が高く、外からビジネスアイデアを持ってくるベンチャー企業やその予備軍は、ほとんどが大企業への売り込みが目当てである
「売り込み」が目当てであっても、それが新しい視点や企業のシナジーをひき起こすのならまだ良いのですが、それなしに「貴社の設備投資に弊社のこの技術やソリューションを買ってください」という単なる売り込みは、時間の無駄です。
加えて、大企業はオープンイノベーションの目玉施策として、プロのアクセラレーター事業者(ベンチャーをインキュベートして支援して事業化を助ける事業者)にお金を払って、アイデアコンテストを委託することが多いようです。しかし、このモデル、原理的に上手くいきません。
本来、アクセラレーターは、ベンチャーと大手企業を掛け合わせてシナジーを生んで、その差分の利益の配分に預かる(1+1が2ではなく5になったとして、2と5のギャップの3=シナジー効果の分け前に預かる)というのがビジネスモデルであるべきですし、シリコンバレーでは大抵そうです。それならば、アクセラレーターもまず、シナジー(3)を生んで、利益を得ようと本気になります。アクセラレーターはシナジーを生まないと食べていけないので、良いベンチャーを見出して、大手企業とのコミュニケーションのカタライザー(触媒役)としての役割を果たして、大きなイノベーションを起こそうというインセンティブが高まります。
実際、私自身も、一ベンチャー企業として、某食品メーカーや某鉄道会社のアクセラレータ・プログラムに応募・参加して、説明会に出たり、いろんな関係者と交流して、それを痛感したのですが、この「大企業が多額の委託金をアクセラレーターに支払って、良いベンチャーを発掘するコンテストを開催して、マッチングして貰う」というモデルは確実にモラルハザードを引き起こします。
アクセラレーターは既に大企業から多額の固定報酬をもらっているので、「シナジーを生める最適のベンチャーをなんとか発掘して、コーチングして、大企業にマッチアップしよう」というインセンティブが鈍ります。
大企業は、業務を下請けに委託することに慣れていますから、当事者意識を持って、アクセラレーターをアクセラレートして、しっかり良いベンチャーとマッチアップしようとするインセンティブが鈍ります。
ベンチャーもまた、こうした「大人の事情」を察しているので、とんがった応募者はおらず、忖度上手な、「無難な優等生」だけしか集まらないし、コンテストで実際に優勝するのは、その手の人々なわけです。
このようにして、我が国ベンチャー界隈では、なんともとほほな、緩いビレッジピープルによるエコシステムが現出しているのが現況です。
しかし、そんな状況は絶対に打破しなければいけません。では、一体どうすれば、リアルなオープンイノベーションを引き起こせるのでしょうか?
それは、本気でアクセラレータにアクセラレートさせる大企業当事者のコミットメントであります。大企業当事者とは、アクセルレートプログラム担当者、経営トップマネージメント、そしてラインの人々の総体です。
塩野氏のいう「オープンイノベーションごっこ」を「ごっこ」に終わらせないという大企業側の熱意とクールな仕掛けづくりです。
それがあれば、必ず上手くいきます。電力IoTで良いアイデアをお持ちのベンチャー界隈の方々、是非私にご連絡ください。大企業の有する、有形無形の資産を縦横無尽に活用できるという、ガチンコのアクセラレートを必ず実現していきます。
また、アゴラという言論プラットフォーム上で、こうした電力・交通IoTのベンチャー企業のリアルなエコシステムを構築することに貢献させていただきたいと切に願う次第です。