反安倍と反小池で痛々しい朝日の紙面

中村 仁

立憲民主党的な護憲派を選択

朝日新聞は、天敵の安倍政権批判を編集方針の主柱にしてきました。野党再編で希望の党が誕生すると、「自民の補完勢力になる」との位置づけをして、今度は小池批判です。反自民、反希望を貫くとすると、朝日が親近感を持てるのは少数野党の立憲民主党くらいでしょう。しかも「立憲民主」は歴史的役割を終えていますから、朝日の紙面に痛々しさを感じます。

加計、森友学園問題を追及している時の朝日新聞には、ある種の勢いがありました。日本全体からすると、「小さな小さな問題」(二階自民党幹事長)であったとしても、政権の独断的な意思決定の仕組み、政権と行政府との不透明な関係、「記録がない、記憶にない」を繰り返した担当者の不自然な態度などは、政権の政治体質を象徴していました。ですから二階氏の指摘は正しいとは思いません。

朝日新聞は慰安婦報道や、スクープと称した福島原発事故処理に関するねつ造報道では、政権からも徹底的に痛めつけられました。その天敵の安倍政権をじわじわ追い詰めつつあると思っていた矢先に、解散、総選挙でするりと、安倍政権にかわされました。安倍政権にダメージを与えることができるとすれば、小池新党に期待するしかありません。

朝日はその小池新党に批判を繰り返しています。4日の社説では、「見えてきたのは希望と自民は対抗軸というより、両者の近さだ」、「結果としては、実質的自民の補完勢力になる」、「誕生したばかりの希望の統治能力は未知数だ」です。こうしたネガティブ・キャンペーン(対立候補を貶める選挙戦術)を朝日は次々に繰り出しています。

露骨な小池批判を次々

5日には、元経企庁長官の田中秀征氏に「自民党の基本政策変更させず、外からの安倍追い落としだ」と、語らせています。つまり保守党内部の権力ゲームにすぎないというのでしょう。6日には、最近はサンケイ新聞寄りのはずの佐伯啓思氏が朝日に登場し、「話題を独占した小池氏による、無責任な興行師のような荒業」という品のない批判を述べました。

2日には世論調査部長が署名入りで、「小池氏はかねて改憲派で、タカ派色が強い。小池氏はカメレオン。反自民なのか自民の補完なのか見方が交錯し、疑心が広がっている」と、あからさまな論評を載せました。同じ日の学者対談では、「右回転を止めなければ」、「選挙結果では自公と希望の大連立も」と、語らせています。

小池新党に期待されているのは、過半数の議席を得て、一気に政権交代に持ち込むことでありますまい。その可能性は少ないでしょう。政治的経験が乏しい小池チルドレン、日本も政治をガタガタにした民主党政権の残党に政権を担う力があるとは、思えません。今回の選挙は、自民党政権にダメージを与え、「安倍1強」体制の修正を迫るところに役割を見出すべきなのです。

小池氏の役回りはそこなのです。その小池氏に対して、「反自民なのか自民の補完なのか」、「場合によっては大連立も」と批判し、自民の同類項に過ぎないというイメージを朝日は振りまいているのです。そうした言論キャンペーンが奏功して、小池票が伸びず、安倍政権が安泰だったら、朝日新聞は困るのではないのですかね。

枝野新党に肩入れか

朝日新聞は安倍も拒否、小池も拒否で、親近感を持つのは少数野党の立憲民主党なのでしょう。3日の朝刊1面トップは「枝野氏が立憲民主党。民進リベラル系参加」の大見出しでした。自民党の選挙公約は1面3段、選挙公約の要旨も小さな扱いです。読売新聞が1面準トップ、さらに1ページ使って要旨を紹介してのとは、正反対の編集方針でした。

絶句したのは社会面トップに「護憲派市民グループ代表」の発言を据え、「今こそ戦争放棄。憲法9条を保持してきた日本国民にノーベル平和賞を」です。1面トップは立憲民主党の発足、社会面トップは護憲派団体代表の記事で、これは朝日新聞が「護憲派新聞でやっていく」と宣言したのに等しいことになります。

米ソの冷戦構造が終結し、リベラルの意味自体が曖昧模糊としています。「旧社会党などの左派勢力」、「憲法改正反対、自衛隊任務拡大に反対」、「自民党内の中道保守、反タカ派」などいろいろに解釈されます。立憲民主党は「左派勢力」「憲法改正反対」「手厚い福祉」などが政策の柱になるのでしょう。要するに狭い道が残されているにすぎず、その伴走者になろうとしている朝日新聞に痛々しさを感じないわけにはいきません。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2017年10月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。