元F1ドライバー山本左近に聞いた。夢の描き方とは!

尾藤 克之

写真右が山本左近さん、左が菊池社長。筆者撮影。

仕事には理不尽がつきものだ。「好きなようにやれ!と言ってたのに突然ハシゴを外された」「いつの間にかプロジェクトの失敗がオレの全責任になっている」など、社内で発生する仕事の理不尽は数え切れない。実際、多くの人が仕事に悩みをもつことも間違いない。しかし、憂いたところで簡単に環境は改善しない。

突然だが、皆さんには、夢はあるだろうか。特に幼い頃、なりたい自分を描いたことはないだろうか。その、なりたい自分に近づくために、いま何をしているだろうか。インタビューの相手は、元F1レーサー、山本左近さん。この先の記事を読めば、理不尽を乗り越えるヒントが見つかるかも知れない。

今回は、出版社を経営する、菊池学社長も同席し、都内某ホテルのラウンジでインタビューをおこなう。左近さんは、小学生の頃、F1マシンを見たときに、自分はこの車に乗ることを確信したそうだ。多くのF1ドライバーが12歳頃からカートなどの競技をしていることを知り、両親に直談判をする。ここから夢へのスタートが幕をひらく。

人間は自己実現不可能な夢は思い描かない

――「人間は自己実現不可能な夢は思い描かない」。これは、左近さんの座右の銘になる。いまは夢が定まらず、なりたい自分を描けない人が多い。この言葉は、追い込まれた時、つらい時にも、新たな道を切り開いた言葉だった。

「私は、ヨーロッパで挫折を経験しています。スランプで結果を残せなくなることがありました。こんなはずではなかったと思い悩むわけです。そうなると、チーム内の不協和音が聞こえてきます。これはオレが原因なのか?はじめて、レースをやめることを考えました。帰国して、両親に話したら次のように言われました。」(左近さん)

「『自分か納得できるのであればレースを辞めてもまったく構わない。納得しないまま辞めたら絶対に後悔する。お前はデキるだろう?』。その両親の言葉が私の背中を押してくれました。これが、再挑戦する覚悟を決めた瞬間でした。」(同)

――F1について簡単に紹介したい。F1ドライバーはレギュラーで12チーム×2名のわずか24名しかいない。参加するには「スーパーライセンス」が必要とされるが、頂点に登りつめた一部のドライバーのみしか与えられない。レースはフルマラソンより過酷と言われる。平均時速200kmを超すバトルを繰り広げるには、些細なミスも許されない。

「先ほどの、ヨーロッパで挫折を味わったときの話をしましょう。その時、私は『いまできることに集中する』ようにつとめました。自信を失い、タイムが伸びないとき、がむしゃらにコースに出ても空回りします。だったらできることからやったほうがいい。その繰り返しのなかで見えてくるものがあるからです。」(左近さん)

「いまは、アクセルやブレーキング、ギアチェンジがスムーズか、コースどりは充分かなど、すべてがデータで出てきます。2段飛び、3段飛びでは結果も伸びません。だから1つ1つを積み上げていくしかないんです。」(同)

――人は、誰もが物事を都合の良いように考えてしまうものだ。仕事にしても、うまくいかなくなれば周囲のせいにしたくなる。わかりやすく表現すると、「うまくいったら自分のおかげ、失敗したら周りの問題」ということになる。

うまくいったことを他責として考えることができれば、そこには相手への「感謝」の気持ちが生まれる。左近さんが、「感謝」を口にするレースの事例を紹介したい。

2006年ブラジルグランプリは、F1世界選手権第18戦として、2006年10月22日にインテルラゴス・サーキットで開催された。デビューイヤーの最終戦。数年落ちのマシンを操りながら、レースのファステストラップで7番手。さらにはセクター2ではミハエルシューマッハに次ぐ2番手タイムをレース中に叩き出した。

「マシンの性能が劣ることを憂いても意味がありません。この時、私は、マシンのポテンシャルを最大限に引き出すことに集中していました。数年落ちのマシンでも、常に全力で戦っていればいつかチャンスが訪れると信じて。それが応援してくれるファンやチームへの僕ができる恩返しの方法だと思っていました。」(左近さん)

ここまで一緒に戦ってきたチーム全員で良いレースをしたい。数年落ちのマシンであっても全力を尽くす。そんな気持ちだったという。その結果、「完走すら奇跡」と言われたチームで、最終戦には素晴らしい結果を残すことができたのだ。

社会福祉の分野でいまできることに集中する

現役時代の左近さん(HPより)

人生なにが起こるかわからない。左近さんはF1ドライバーを引退し、家業の医療福祉法人(医療法人さわらび会・社会福祉法人さわらび会)の経営者である。全日本病院学会などで座長を務めるなど、活躍のフィールドをひろげている。自分自身を立ち位置を俯瞰できれば何をすべきなのかが明確になる。

実は、私にも夢がある。その1つがベストセラー作家になることだ。先月には、9冊目となる拙著『007に学ぶ仕事術』を約3年半ぶりに上梓した。ベストセラー作家になるにはまだ実績が足りないが、着実に歩んでいきたいと思う。左近さんの言葉を借りれば、「いまできることに集中する」しかないのだろう。これは着実にすすめるしかない。

左近さんは、いまでも、レースを続けている。挑戦という名のレースだ。「これからは若い世代が活躍できるような、きっかけをつくったり、お手伝いができたらと考えています」と語る。どうやら、左近さんの「挑戦へのレース」は、しばらく終わりそうにない。

今回、貴重な機会をいただいた、元F1ドライバーの山本左近さん、パブラボの菊池学社長に謹んで御礼申し上げたい。

参考書籍
幸せに死ぬ義務がある』(パブラボ)
山本孝之 (著)

尾藤克之
コラムニスト

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