自動運転トラクターは日本の農業の未来を変えられるか?

黒坂 岳央

こんにちは!肥後庵の黒坂です。

私は果物ギフトショップを運営・販売している立場にあるので、農業の現状や未来についてとても関心があります。「日本の農業を待ち受ける未来は決して明るいものではない」というのが私の持っていた正直な感覚でした。でも今は違います。新しいテクノロジーやロボットの台頭により、今後は変わっていくのではないかと考えています。

日本の農業を待ち受ける未来

あらゆる職業の中でも農業の死亡率は不名誉な第一位を獲得してしまっています。他の産業と異なり、農業の担い手の多くは高齢者というのも理由にありますが、根本的に農業には若者の姿が見られない高齢化が深刻で、このままでは未来の担い手は誰もいなくなってしまいそうな、そんな暗雲が立ち込めています。

果物の仕入れ原価は毎年少しずつ値上がりしています。また、お付き合いのある果物の生産者も「後継者がいない」と嘆いている人は一人や二人ではありません。時々、メディアに「農業になりたい若者が増えている!」みたいな明るい記事が出ていますが、手を挙げるもののやってみてその過酷さにすぐに辞めてしまう人もまた、多いのが実情です。

「このままでは未来の日本の農業を担い手がいなくなってしまう…」そんな危機感を持っていたのですが、久しぶりにそんな暗雲を吹き飛ばすようなニュースが飛び込んできました!農機メーカークボタが無人トラクターを開発したとあります!

農業の跡継ぎをする人がいなくても機械があるじゃないですか!

トラクターの自動運転の実力

農業は死亡率が高い職業ですが、これは台風や大雨といった自然災害時によるもの以外に、重機の誤操作によるものも多いと言われています。農作物の収穫や土を耕すトラクターの事故も多く、転落や挟まれる等の痛ましい事故が起きています。

今回の無人トラクターは当たり前ですが、運転席には誰も乗っていません。その名の通り、「完全に無人」です。

専用のリモコンのボタンを押すだけで運転が開始されるので、複雑な操作が苦手な高齢者でも簡単に扱える。しかも2時間余りで1ヘクタールの耕運が可能で、通常の農機と効率性は変わらない。
出典:【ビジネスの裏側】畑から人が消える?自動運転の無人トラクター、クボタが来年発売へ…法的ハードル低いが価格は – 産経ニュース

とあります。これはすごいですね!リモコン操作をするだけで自動的に農作業が終わってしまいます。また、無人トラクターで対応できる農作業は土を耕すところから、収穫まで年間を通じて必要な部分を全て対応可能のようです。となると重機に乗って事故に遭う、怪我をする危険から完全に解放されるわけです!!

クボタの自動運転農機「アグリロボトラクタ」(同社プレスリリースより:編集部)

無人運転のハードルは「意外と低い」

無人運転にまつわる話は自動車の世界でたくさん出ていますが、そのどれもが「難しい」という形容詞が使われています。あなたも無人トラクターと聞いて「そうはいってもまだまだ実現は先なんでしょ!?」と思うかもしれませんね。でもご安心ください!自動車とトラクターでは同じ自動運転でもそのハードルの高さは全然違います!

現状でオートパイロット(自動運転)の機能がついている車はいくつもあります。しかし、オートパイロット機能があっても国や地域の法令に従わざるを得ず、結論的には現状の日本で完全な自動運転は出来ません。「車に乗ったらハンドルを握らず、後は目的地まで自動運転におまかせ!」というのはまだ未来の話なんです!

でも畑を走るトラクターには道路交通法は適応外!もちろん畑には対向車や歩行者もいませんよね?ですのでそのハードルは自動車に比べると圧倒的に低いといえるわけです。あなたが思ったよりもずっと早く、無人トラクターがあちこちの畑で走る光景が近い将来に実現すると私は思っています!そうなると体力を要求される危険の伴う農作業は、全部機械におまかせし、生産者は品質や出来栄えをチェックするマネジメントに専念できます。

うーん、これが理想的な農業のイメージだと思います。AIやロボットが進化していけば、人は過酷な肉体労働から開放されるべきですね!

ジャッジメント・デイを回避する手段は農業のIT化

最初にお話した通り、現状のまま変わらなければ日本の農業人口は右肩下がりとなってしまい、もしかしたら日本のスーパーに並ぶお米や野菜、果物といった農作物はすべて海外産になってしまうかもしれません。そんな「ジャッジメント・デイ」(最後の審判)を回避する手段は2種類あると思っています。

1つめは「農業のビジネス化」。日本の農業は生産物の品質に対して金額が安すぎると感じます。農家が汗水たらして品質の良い農作物を作っても、手元に残るのはわずかな金額です。私はその突破口は一般流通網に頼らないマーケティングが必要だと思っています。

肥後庵では品質の高いスイカやメロンを作ってくれる素晴らしい腕を持った生産者を数多く契約しています。彼らから独占的に仕入れ、その対価をしっかりと渡しています。農家も一般流通網に乗せるより多くのお金を手にできるので、生活も潤い、消費者も畑から食卓へ品質の良い、新鮮なものを口にすることが出来ます。こうすることで生産者、販売者、消費者が「Win-Win-Win」の関係になる「Total-Win」を作っています。この流れをもっと広げていくことで、農業の「過酷だけど収入は少ない」という状況を打破できると思っています。

そして2つ目は「IT化」。農業の未来は、むしろこちらにかかっているでしょう。日本の人口減少、少子高齢化を止めることは簡単ではありません。ですが効率性を高めることで、今以上に高品質で流通量を増やすことは出来ると考えています。絶対に欠かせないその鍵はIT化。これまでは「職人の勘や経験」といったアナログな部分に頼っていたものを、ロボットが収穫してiPadで温度や二酸化炭素管理を行う「野菜・果物工場」を作ることで安定的な収穫が望め、安全性も担保されるでしょう。

自動運転トラクターがジャッジメントデイを回避する一手になってくれると嬉しいと思っています。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。