自民が大勝しすぎて憲法改正は困難になった(特別寄稿)

八幡 和郎

首相官邸サイト:編集部

自公で議席の3分の2である310を確保したので、憲法改正の発議が可能になったという報道が盛んにされている。

しかし、公明党は必ず国民投票で勝てると見通しがなければ承知しないだろうし、実際、野党第一党の賛同も得ないと、というようなこともいっている。逆にいえば、野党第一党の賛同を得る内容なら拒否はしないということだろう。

今回の総選挙は、そういう状況を作り出す絶好のチャンスだった。憲法改正に賛成するという踏み絵を公認の条件にした希望の党が第二党になるはずだったからだ。ところが、なんとこのチャンスを自民党は全力を挙げてつぶしたのだ。

憲法改正についてのポジションについては、論理的には四種類あると思う。

①押しつけ憲法だからという考えに基づく過激な改正

②現憲法の基本精神は悪くないが改善点はあるという前提での温和な改正ならいい

③現行憲法を死守

④左からの改正には賛成だが右からの改正は反対という共産党などの立場。

世の中で改憲派といっているのは①である。③と④が自称護憲派だ。②は中間派である。ただし、昨今は、枝野氏のように、安倍内閣による改正には内容の如何にかかわらず反対という⑤がいるが、これは、まじめな憲法論争の対象ではない。

そして、現実に改正が可能になるのは、①と②がほどよくまとまり、③のかなりの部分が仕方ないと思うような内容であるときだけだろう。そうでないと国民投票で承認されない。④と⑤のことは無視してよい。
そして、希望の党の出現は、まさに、そういう状況を生み出せるものだったのだ。自民党や維新は①か②だし、公明党は②、そして、①②③⑤のいずれも含む民進党のうち、③や⑤の路線にどうしても拘るという分子は排除ないし、黙らせることが可能だったのだ。

となれば、自民党・公明党・維新・希望が合意した内容だったら、共産党(④)・社民党(③)と民進党はぐれ組の10~20議席が反対したところで、なんとか国民投票を乗り切ることは出来ただろう。従って、今回の選挙で、希望の党から排除された20人程度の現職が10人程度になり、希望が80~100人程度になるのが、もっとも憲法改正には現実的な状況だったように思える。

そして、自民党は20~30人程度減っても、公明党や維新がもう少し積みませたほうがよかった。

そうした状況で、なんなら大連立でも組んで、2年程度で憲法改正を仕上げ、五輪を花道に安倍首相は引退し、小池氏も満を持して、政権取りに取り組めば良かったのである。

そもそも、憲法改正が終われば、議席の3分の2などもつ異常に大きい与党など不要だから政界再編も悪い話ではなかった。戦後の政治で二大政党が実現しなかったのは、憲法改正のために3分の2を自民党が狙い続けたからなのだ。

ところが、自民党は徹底的に自党の議席数の積み増しを図った。だから、公明党のために比例の票をまわすとか、公明党の候補者が立っている小選挙区で是が非でも当選させるという意欲に欠けたように見えた。

また、維新についても、せめて原状維持ができるように手加減も可能だったはずだ。そして、少なくとも、希望をたたくためには、石原慎太郎氏が枝野代行を絶賛するなどと言う立民を敵の敵として利する愚かなことをしたりするべきでなかった。

今回の総選挙で、自民党は、というよりは、二階幹事長はというべきかもしれないが、小選挙区で競合する希望を徹底的に叩いた。立民は小選挙区に十分な候補を立てられていなかったから、さしあたって、議席数を増やすためには賢明だった。しかし、もし、安倍首相が憲法改正を願っていたとしたら、明らかに間違った選択だった。

枝野氏自身は、集団的自衛権はおろか、国連軍に参加しての海外派兵まで容認する憲法改正案を提案したこともあった。しかし、憲法違反の安保法制を追認する内容の憲法改正は受け入れられないと言っており、要するに、上記の⑤の立場なのである。そして、その立民が第二党になった。しかも、しばらくは、バブリーな人気は続くだろう。小池知事の人気でも一年以上、続いていたのである。

そうすると、立民が安倍内閣による憲法改正に賛成するはずないし、野党第一党が反対陣営にいるなかでの国民投票はかなり危険である。そして、その危険を公明党はおかすことを承知しないのではないか。

また、やや不誠実な選挙への協力のあとで、はたして、公明党に、連立パートナーのたっての願いだったとしても熱が入るはずもない。

公明にしても、維新にしても、議席数ではたいしたことはないとしても、ギアを上げて国民投票に望んでくれれば、議席数以上の働きが期待できる。また、希望が賛成であるとか、あるいは、最悪、個々の議員にまかせるということでも、テレビでもあまり反対に偏った報道はできなくなったはずだ。

しかし、実際問題として、いまや、野党第一党は何が何でも反対すると公言している立民である。となれば、まず、立民のブームを終わらせてからでないと、国民投票など内容にかかわらず出来ないのではないかと思う。

その意味で、もし、自民党が、議席数では希望を叩くより効果は少なかったかもしれないが、立民を攻撃し(それは希望の評判を現在ほど悪くしなかったことを意味する)、公明や維新に少し票を回して貸しを作っておいたのに比べて、自民党が自分の議席ばかり最大限にした現状では、憲法改正は難しくなったのではないかと思うのである。

以上は、今回の選挙結果と憲法改正の見通しの分析だが、最後に、立憲民主党とそれに絶大な支援を与えているマスコミに念を押しておきたいことがある。

それは、日本の憲政史を知るものなら、立憲政治とは選挙で勝った政党が権力を握って国民を代表して政治を行うことであることを知っているはずだということだ。そして、それを妨害するのが反立憲派であり、そのような試みは護憲運動をもって粉砕すべき対象なのだ。

そして、国民の意思は選挙の議席数で計るというのも、立憲政治の常識だ。得票率がどうのこうのとか、同時に実施した世論調査ではどうこうだから、国民の意思は別にあるというような考え方を排除することが立憲政治なのである。

立憲民主党などと偉そうな党名をつけているなら、以上のような常識をもって行動して欲しいものだ。

また、議院内閣制のもとでの、総選挙の勝ち負けは、過半数を与党で獲得したら、完全なる勝利だ。そして、たとえ、過半数を取れなくても、比較第一党になったら、普通、勝利という。そして、勝利した与党が首班候補としてあらかじめ指名していた人物を交代させるのも、ルール違反である。

さらに、議席数のとらえ方についての報道に重大な疑問がある。自民党の284という数字を解散前と同じと報道しているが、定数が10減って同数なのだから、「同じ」というのは、フェイクニュースみたいなものではないかと思う。前回を上回る勝利とかいう表現をすべきであろう。