『しぶやわたしの便利帳』という冊子が渋谷区で全戸に配布された。昭和時代には広く配布されていた便利帳が復活したのは驚きである。果たして区民は利用するだろうか。それともネットで渋谷区サイトを見て済ますだろうか。
冊子形式の便利帳には二つの大きな欠点がある。第一は、内容が発行時点で固定されてしまう点。便利帳に掲載されている情報は公式サイトの情報のように最新にはできない。渋谷区サイトには便利帳の正誤表が掲載されているが、これこそが情報更新ができない具体例である。
第二は特定の情報は特定のページ一か所にしか掲載されない点。公式サイトであれば同じ情報を何か所に配置しても構わない。学校プールを一般開放するというのであれば、その情報は「施設」のページと「教育」のページに掲載できる。今回の便利帳ではプールの開放は「施設」のページにしか紹介されていない。
渋谷区サイトのほうが便利帳よりもどう考えても「便利」である。
『しぶやわたしの便利帳』は誰を読者と想定しているのだろう。10月1日時点で住民登録224,529人のうち10,279人は外国人である。人口の5%近くが外国人を占めるが、彼らは日本語で表記された便利帳が理解できるのだろうか。便利帳は読みやすいUDフォントを利用しているそうだが、視覚に障害のある人が利用できるだろうか。
渋谷区サイトを英語表記にして検索すると「Convenience book of Shibuya City / Shibuya me」というリンクが示される。「Shibuya me」とは何ともすごい翻訳だが、自己責任で利用しろという(Please use this service at your own discretions)。ちなみに表示されたリンクは便利帳の配布を知らせる日本語のページにつながっていた。
『しぶやわたしの便利帳』には電子書籍版がある。iPhone向けの電子書籍をダウンロードしたがVoiceOverでは読み上げできなかった。冊子だけでなく電子書籍も視覚障害者は利用できない。
便利帳の巻頭には長谷部区長のあいさつが掲載されている。そこでは「ダイバーシティとインクルージョン」が強調されている。外国籍の区民や障害を持つ区民こそ多様性配慮の対象だろうに困ったことだ。
紙資源の無駄にしかならない便利帳の配布は失敗である。