“音楽の都”ウィーン市の「死者事情」

欧州のローマ・カトリック教会では1日は「万聖節」(Allerheiligen)」で祝日で同時に休日だった。2日は休日ではないが、「死者の日」(Allerseelen)で、多くの人々が花を買って先祖や知人のお墓参りに出かける日だ。

▲ウィーンの中央墓地(2017年10月、撮影)

▲ウィーンの中央墓地(2017年10月、撮影)

ところで、「死者の日」にちなんでオーストリア日刊紙クリアが興味深い記事を掲載していたので、読者に報告する。「音楽の都」ウィーン市の「死者事情」だ。

「音楽の都」ウィーンの人口は現在約180万人と推定されているが、墓地の規模で欧州2番目、ウィーン市の「中央墓地」には33万の墓石があり、埋葬された死者数は約300万人という。すなわち、ウィーン市で生きている市民の数(人口)より、死者の数の方がはるかに多いわけだ(欧州最大の墓地はハンブルク・オールスドルフ墓地)。 ウィーン市内には55カ所に墓地があり、トータルの大きさは550ヘクタールになる。

ウィーンを訪問する旅行者ならば、シェーンブルン宮殿やシュテファン大聖堂と共に、必ず足を向ける観光地は中央墓地だ。そこには楽聖ベートーヴェンからシューベルトまで音楽史を飾る著名な作曲家の墓がある。だから、音楽の都を訪ねた以上、中央墓地の「音楽家の墓」を訪問するのはウィーン観光の常識となっている。墓地が観光地となっているのはウィーン市だけだろう。

ところで、ウィーン市で死者と出産が正式に登録されたのは1710年頃からという。一方、人口調査が初めて実施されたのが1754年というから、ウィーン市では当時、死者数の方が市の人口より正確に分かっていたわけだ。

ウィーンの人口が過去、急速に減少したのは、1713年のペストの大流行、1918年のスペイン風邪、そして第1次、第2次世界大戦時だ。1880年に水源パイプライン建設が実施されてい以来、ウィーンの衛生状況は急速に改善され、死亡件数も減少した。

現在、65歳以上のウィーン市民の死亡原因は循環器系疾患が最も多く、次いでガンだ。死者の約58%は病院で死を迎え、老後施設や自宅は各16%。24歳までの男性の死亡原因で最も多いのは事故死で、同年齢の女性の約4倍という。

市民の平均寿命も過去50年間で大きく変わった。1961年は男性は66・7歳、女性は73・3歳だったが、2015年には男性77・6歳で女性は82・8歳だ。乳児死亡率も過去50年間で86%急減している。

ウィーン市では死を迎えるシーズンとしては冬が最も多いという。昨年死者件数が最も少なかった月は6月で、最も多かった月は12月だった。死亡時刻は12時正午が最も多く、昨年2665人が正午に亡くなっている。それについで早朝午前5時で705人だった。

米作家ラングストン・ヒューズは「墓場は、安上がりの宿屋だ」と述べたが、ウィーンでは墓場は高くつく。数年前、知人の銀行マンと話した時、彼は「残された家族のために今から死んだ時の墓場代を貯金しておけばいいですよ。ウィーン市では平均8000ユーロ(約106万円)はかかりますからね」と教えてくれたことがあった。ウィーン市では、安上がりの墓場を見つけることは難しくなった。音楽の都に住んでいる限り、簡単には死ぬこともできなくなってきたわけだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年11月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。