よみがえる岸信介の亡霊

安倍晋三氏が首相に指名され、第4次安倍内閣が発足した。5年前に彼が自民党総裁に指名されたときは、憲法改正を宿願とする「右派」の首相が長期政権になると予想した人は少なかったが、来年総裁に3選されると憲政史上最長の首相となる可能性も出てきた。

私は安倍首相の外交・防衛政策は高く評価するが、彼の経済政策はほとんど成果を上げていない。アベノミクスの目玉だった量的緩和は空振りに終わり、今度は財政に軸足を移し始めた。「雇用で成果を上げた」と誇っているのに1兆円の補正予算を編成し、財界には賃上げを要請する。彼の統制経済的な政策は祖父、岸信介元首相に似てきた

「戦時レジーム」に回帰する安倍首相

岸は戦前・戦後を通じて日本の政治を動かした「妖怪」である。戦前の商工省で計画経済を推進する革新官僚として活躍し、満州国を建設した。彼は若いころ右翼の教祖だった北一輝に心酔し、エリートが国家を指導する国家社会主義を理想と考えた。満州国はその実験であり、戦時体制はその全面的な実施だった。

戦争遂行のための総動員体制をつくったのは陸軍の永田鉄山軍務局長だが、彼の「国策研究会」には岸をはじめとする革新官僚が参加した。岸は満州国に渡って、永田の青写真を実験したのだ。

岸は東條内閣の商工相として太平洋戦争の開戦詔書に署名し、国家総動員体制の責任者として軍需生産を指揮した。彼は軍部の中枢にも石原莞爾など多くの盟友をもち、軍民一体で戦争を指導する総動員体制を構築した。

戦後、岸はA級戦犯容疑者となったが起訴をまぬがれ、保守合同を実現して首相になった。外交では岸は反米だったが、戦後はアメリカと妥協し、CIAから資金提供を受けた。岸が日米安保条約を改正したのは、占領下の変則的な状態でつくられた憲法を改正して日米が対等な同盟国になるためだったが、彼の努力は挫折した。

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