トランプ大統領が北東アジア三カ国の歴訪を終えた。驚くべき成果を出していると感じる。日本では、日本の視点に立って、日米関係の堅持への安堵、韓国への苛立ち、中国における歓待ぶりへの驚き、などが話題になっているようだ。それはともかく、トランプ外交の分析という意味においては、トランプ大統領の思い通りに三カ国を手なずけ、次々と自らを歓待させた。
私は、このブログにおいても、トランプ大統領を孤立主義者と描写するのは間違いだ、という記事を何度か書いた。
わずか一年弱前に、そのような議論がありえたことに、隔世の感を覚えるほどの情勢ではないだろうか。北東アジア情勢は依然として不透明だが、一つ明らかなのは、トランプ大統領が孤立主義者ではないということだ。
トランプ大統領は依然として、「アメリカ第一」主義者である。三カ国全てにおいて、安全保障政策を通じたアメリカの地域への関与を強調した上で、アメリカ製品の売り込みと、貿易不均衡の是正策の要請を行うことを、忘れなかった。
トランプ大統領のインフレ気味の姿勢に三カ国の全てが完全に対応する事はないとしても、歓待ぶりからすれば、外交的論理にそったそれなりの対応をせざるをえないことも必至だろう。「アメリカ第一」主義が、孤立主義のことではないことを強く印象付けた北東アジア三カ国歴訪であったと言える。
中国では、習近平国家主席が果たしうる役割を徹底的に持ち上げながら、朝鮮半島の非核化を目指す圧力強化での合意を強調した。事実上、北朝鮮というバファー国家を中国の影響圏から取り除く意図をアメリカが持っていないことと、中国主導での金正恩政権の脅威の除去に現実的な期待があることを両国が確認した形だ。
韓国では、非核化と弾道ミサイル開発放棄のための北朝鮮に対する圧力強化という論理を徹底させ、性急な軍事力行使への警戒心が強い国内世論を配慮する韓国政府からの賛同を確保した。アメリカからの先制攻撃への懸念を払拭させながら、軍事力行使のオプションも含みこんだ上での包囲網への韓国の参加を確保した形だ。
日本では、横田基地に到着してすぐに安倍首相とのゴルフに真っ先に向かうというパフォーマンスに象徴されるように、アメリカが最も信頼する同盟国が日本であることを示しながら、安全保障上の協力関係が軍事作戦面での協力関係を柱にしているという基本的な事実を、内外に誇示した。
現在までのところ、トランプ大統領のツイッター上の過激な言葉使いと、時には誇張も感じられる相手国の役割の評価の言葉とが、北東アジア外交では、効果を発揮している。トランプを迎えるアジア諸国も、大統領の人格にとらわれず、ビジネス・パートナーとして迎えるという発想が徹底できているのではないか。
日本では軍事行使があるかないか、という占いのような話に議論を持っていきがちだ。相変わらず「圧力か対話か」といった、神様になったつもりで答えてください、というような意味不明な選択肢を迫るアンケート調査も数多いようだ。
しかしビジネスの世界もそうだと思うが、政治の世界も、自分ではコントロールできない結論だけを自分勝手に決めたうえで、独りよがりの主張をするような行為は推奨されない。自分が目指す目標について明示したうえで、選択できる手段と発生しうる事態を複数想定して比較衡量しながら、様々なアクターとの相関関係の中に自分を位置付けて、政策判断をしていくのは、当然のことである。能力が発揮されるのは、勝手な結論を独善的に宣言することによってではなく、目標達成に少しでも近づくための環境改善とプロセス管理によってである。
今のところ、少なくとも北東アジア情勢について言えば、「公務経験のないビジネスマン」大統領トランプ氏は、極めて合理的に行動しているように見える。少なくとも、彼が「孤立主義者」ではないことだけは、はっきりしているだろう。
編集部より:このブログは篠田英朗・東京外国語大学教授の公式ブログ『「平和構築」を専門にする国際政治学者』2017年11月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。