スエズ運河に対抗する新たなルートが誕生するかもしれない。インドからイランを経由して中央アジアを抜けてロシアから北ヨーロッパに繋がるというルートである。このプロジェクトの実現に向けて主導しているのがロシア、アゼルバイジャン、イランの3か国である。
ロシアのプーチン大統領とアゼルバイジャンのアリエフ大統領は10月26日にイランの首都テヘランを訪問した。
プーチン大統領とイランのロウハニ大統領との会談では、シリア紛争とイランとの核合意について協議した。米トランプ大統領が核合意の再交渉を望んでいるのである。しかし、ロシアもイランもそれに応じる意思はなく、共同で米国に対して協同歩調を取ることで一致している。
また、アリエフ大統領はロウハニ大統領と両国の貿易の進展と、またイランのラシットからアゼルバイジャンのアスタラを結ぶ鉄道建設についての協議が行われた。この鉄道が、懸案になっているスエズ運河に代わるルートの下敷きになっている。
今回の3者による首脳会談でインドからコーカサス、中央アジア、ロシア、北ヨーロッパを結ぶ7200kmの南北交通回廊(NSTC)の建設について協議を行われた。前回の協議はアゼルバイジャンの首都バクーにて昨年8月に行われた。
このルートの建設構想は2000年9月に誕生したもので、インドからヨーロッパへの運搬ルートは現在スエズ運河から地中海を経由してのルートしかない。それだと、インドからロシアのサンクトペテルスブルグまで45日の行程だ。一方、NSTCのルートが誕生すれば15日の所要日数になるという。
アゼルバイジャンは隣国のアルメニアとナゴルノ・カラバフ地域の領土問題を抱えて、トルコを味方につけている。、一方のアルメニアはロシアと宗教的にも繋がりが強く、そしてイランも味方している。
イランの敵とされているイスラエルがアゼルバイジャンと関係が深く、イスラエルの衛星国的な存在になって、そこからイランを牽制している。
また、イランはシリア紛争でロシアと協力関係にあり、しかも武器の供給国でもある。更に、原油の開発や原子炉の建設でもロシアはイランにとってなくてはならない存在になっている。
アゼルバイジャンとイランは双方で利害が衝突する関係にあるが、両国ともロシアの影響力が強いことから、今回の3か国が協力してのNSTCの建設が可能になっているのである。
アリエフ大統領は会合の席で「この地域の3つの隅石が、この地域全体の将来の発展に貢献するようになる」と述べた。
即ち、このルートが建設された暁には周辺諸国アルメニア、ベラルーシ、キルギス、カザフスタン、トルコ、ウクライナ、タジキスタン、オマーン、シリア、イラク、ブルガリアなどもこのルートの恩恵を受けるようになると見られているからである。
これらの国々は全てロシアの影響下にある。ロシアはカスピ海と黒海を結ぶ地域はロシアにとって地政学的に非常に重要な地域だとして常に見て来ている。
また、このルートの建設によって特に中央アジアが新たな市場として見直され発展に繋がることは確かである。そして、このルートの完成はスエズ運河のアジアとヨーロッパを結ぶ独占的は立場が崩れることになる。