テレビ局はなぜ電波の有効利用を恐れるのか

池田 信夫

規制改革推進会議では、電波の有効利用がかなり本気で議論されている。私もきょう説明したが、この問題の最大の障害はマスコミがまったく報じないことだ。その原因はいくつかあるが、すべて誤解である。

  1. 電波オークションでテレビ局の既得権が侵害されると信じている:これは足立康史氏などネトウヨの一部が流している話だが、まったく根拠がない。テレビ局が今もっている無線局免許をオークションにかけることはありえない(海外にもそんな例はない)。まして放送免許を取り上げてオークションにかけるなんて不可能だ。したがってオークションで脅して偏向報道を是正することもできない。
  2. オークションを電波利用料と混同している:この誤解は政治家にも影響を与えているが、電波利用料はオークションの代わりにはならない。これは郵政省がオークションを導入しなかったとき、その言い訳として創設したもので、海外にはない制度だ。「テレビ局の電波利用料が安い」というのがよく問題になるが、大した話ではない。オークションが実施できるなら、電波利用料は廃止してもいい。
  3. 有効利用とオークションを混同している:有効利用はオークションとは別の問題である。UHF帯の区画整理で約200MHzあけることができるが、オークションにかける必要はなく、Wi-Fiなどの免許不要帯に割り当てることも考えられる。テレビ局は今まで通り放送できる。

すでに全国の89%で採用している中継局のSFN(単一周波数ネットワーク)を残りの11%でも採用すればテレビの電波は8chあれば十分なので、全国の任意の地点で32ch以上あく。次の図は民放連が「SFNでできない理由」として規制改革推進会議に出してきた資料だが、「異常伝搬」というのが単に「遠方まで伝搬」することなら、14chの中継局を増設して下向きにすればいい。別のチャンネルを使う必要はない。

そもそもVHF帯のマルチメディア放送で総務省は「全国1波のSFN」を認可し、それでNOTTVは営業したのだから、SFNが全国どこでも使えることは電波部のお墨付きだ。移行コストは多少かかるが、それは2兆円近い電波の価値に比べれば微々たるものだから、その帯域を新たに利用する業者にコストを負担させればいい。

あいた電波を政府がどう割り当てるかは多くの選択肢がある。排他的な免許を与えることは効率が悪いが、独占権をもつので高い価格がつく。アメリカでは600MHz帯をT-Mobileなどが使うので、UHF用の半導体が世界に流通するだろう。それを使うには600MHz帯を携帯に開放することが望ましい。この場合はオークションが最適だろう。MVNO業者も応札すれば、多様なイノベーションの可能性がある。

Wi-Fiのような免許不要帯に開放するほうが電波の利用効率は高いが、独占ではないので業者はオークションに勝てない。総務省がオークションをいやがるのは裁量権を失うからだが、用途区分の裁量は総務省に残る。特別会計を残したいのなら、オークション代金の一部を特別会計に入れてもいい。要するにUHF帯の有効利用で、テレビ局も携帯キャリアも役所も損しないのだ。