今日の「New England Journal of Medicine」誌に「Durvalumab after Chemoradiotherapy in Stage III Non–Small-Cell Lung Cancer」という論文が掲載されていた。Durvalumabは抗PD-L1抗体であり、対象となったのは、第3期の局所進行・切除不能肺非小細胞がん患者さんで、かつ、化学放射線治療治療でがんの進行が認められなかった症例である。
709名の患者さんのうち、473名がこの抗体治療を受け、236名が偽薬を受けた。無増悪期間の中央値は、抗体治療群で16.8ヶ月、コントロール群で5.6ヶ月であった。12ヶ月間無増悪であった症例の割合は、抗体治療群で55.9%、コントロール群で35.3%、18ヶ月間無増悪であった症例の割合は、抗体治療群で44.2%、コントロール群で27.0%となっていた。腫瘍縮小効果が認められた割合は、抗体治療群で28.4%、コントロール群で16.0%であった。グレード3-4の重篤な有害事象は、抗体治療群で29.9%、コントロール群で26.1%であり、わずかの差しかない。このうち、肺炎は、それぞれ、4.4%と3.8%であった。有害事象のため、治療が継続できなかった患者さんの割合は、抗体治療群で15.4%、偽薬群で9.8%であった。心の歪んだメディアの人たちに念を押しておくが、偽薬群での有害事象は、常識的に考えれば、がんの進行によるものであり、進行がん症例を対象とした臨床試験では、がんの進行による有害事象は必然的に起こるものである。
少し脱線したが、この段階の肺がん患者に対する抗PD-L1治療薬の効果は明らかである。解釈が難しいのは、コントロール群でも16.0%の割合で腫瘍縮小効果が認められた点である。おそらく、化学放射線治療によって、がんの部位での免疫細胞の活性化が起こり、治療終了から遅れて、これらの免疫細胞による攻撃が始まり、がんの縮小が起こったと考えられる。しかし、化学放射線治療が終了してから、1-42日後に抗体治療が開始されているので、単に、前治療である化学放射線治療の効果が少し遅れて出てきた可能性もあり、どう判断するのかは少し難しい。
化学放射線治療によって、病勢がコントロールされている(病気の進行が抑えられている)患者さんにおいては、がん組織内で免疫細胞が活性化されている可能性が高いことが示唆されている。したがって、このような症例に対して、追加的に免疫チェックポイント抗体でさらに免疫細胞の活性化を図るのは、理にかなっていると思う。それゆえ、12ヶ月、18ヶ月の無増悪患者の割合が、かなり改善しているのだと考えられる。
臨床試験の統計学的な結果だけをエビデンスと信じて疑わない人たちが多いが、医学は科学であり、どのようにすれば今よりも患者さんの生活を改善することができるのかを科学的な思考をもとに考えていくのが医学・医療に携わる人間の責務であると思う。やればできることを、何もしようとしない。それでいいのか、日本の医療は?
編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2017年11月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。