シカゴは一気に冬に突入だ。今日は、久しぶりに晴れ上がったが、外の気温は午前11時にマイナス1度とすっかり冷え込んでいる。強い風も吹いていて、縮み上がるような感じだ。
そして、日本の相撲の世界がドロドロとしている。モンゴル人力士の飲み会で、横綱が平幕の力士に暴行したのは事実のようだが、日本相撲協会の政治パワーゲームも関係するようで、謎は深まるばかりだ。
そして、複数のAlternative factがあり、誰かが、嘘をついていることが明白だ。最終的に、いずれか、あるいは、双方の当事者の責任は回避できない状況だ。Alternative factとして
1.ビール瓶で殴ったのかどうか?
この点は、犯罪性の悪質さを判断するうえで、大きな鍵となる。相撲では張り手などの技があるので、ビンタ程度であれば、痴話げんかの延長線上レベルだが、ビール瓶で頭を殴るというのは生命を脅かす行為であり、明らかな犯罪である。被害者と加害者ではこの点は、対立しているし、ビール瓶では殴っていないと証言した横綱も、これが嘘ならば責任は免れない。
2.けがの重症度
「頭蓋底骨折、髄液漏の疑い」との診断書を書きながら、「相撲を取るには問題がない」と発言した医師も不可解だ。画像や症状からこのように診断したならば、相撲には支障ないと言うのは無責任だ。相撲の激しさを考えれば、「頭蓋底骨折疑い」と「相撲を取るのは大丈夫」は整合性がないように思う。また、警察に提出した診断書と相撲協会に提出した診断書が異なっているのを指摘して騒いでいたメディアがあったが、これは貴乃花親方を批判する意図が透けて見える。硬膜下血腫など症状が遅れて出てくるケースなど少なくはなく、時間が経過して症状が重くなれば、診断名は変わってきてもおかしくはない。報道を見る限り、被害者がどのような生活を送っていたのか、入院前に具体的にどのような症状が出ていたのかという、ケガの重症度を判断する材料がない。症状が軽かったのか、入院しなければいけないほど重症だったのか、という事実こそ、この事件の最重要項目だと思う。
3.休場を要する状態だったのか?
2と関連するが、休場を余儀なくされるような重症だったのかどうか、これも悪質さを判断するキーポイントだが、被害者の実情に焦点が当たっていない。報道の中には、休場する必要がないにも関わらず、無理に休場させて政治問題化させたかったと指摘するものもあった。
4.横綱が暴行を始めるきっかけとなった行為
被害者が「あなたたちの時代が終わった」と言った一言がきっかけだったという報道や「説教している最中に、着信のあった携帯出ようとした」、あるいは「〇〇〇と言った」のがきっかけなど、ハッキリしない。何を言ったにせよ、暴行は許されるものではないが、情状酌量と言う観点では重要だ。
単なる暴行事件ではなく、相撲協会幹部とストイックな貴乃花親方の対立が見え隠れしていて、モヤモヤとした感じが漂っている。近々、警察によって事実が明らかにされるのだろうが、何らかの嘘やごまかしが明らかになれば、責任は免れないだろう。しかし、この事件によって、確実に、相撲界はイメージダウンした。
編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2017年11月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。