リキッドバイプシーで免疫治療の効果予測?

10月号の「Clinical Cancer Research」誌に「Hypermutated Circulating Tumor DNA: Correlation with Response to Checkpoint Inhibitor–Based Immunotherapy」(免疫チェックポイント抗体治療法の効果が、血漿中DNAに遺伝子異常が高頻度に検出されることと関連する)という論文が掲載されていた。内容的には低レベルな論文で、これを臨床応用するには大きな課題を解決する必要があると考えるが、国際的な流れの一つとして紹介したい。

著者たちは免疫チェックポイント抗体薬を含む治療法を受けた69名の患者の血漿DNAを利用して、54-70種類の遺伝子変異を調べた。そして、遺伝子変異のうち、タンパク質の機能に及ぼす影響がわからない遺伝子変異数が3以下の群(49名)と4以上の群(20名)に分けて、治療効果を比較した。その結果、最低6ヶ月間病変の進行が認められなかった患者/腫瘍縮小効果が認められた患者の割合が、変異数4以上あった群では45%に対して、3以下の群では15%であったと報告していた(p値は0.014)。変異の影響が明らかである遺伝子異常を含めた遺伝子変異数で比較した場合、7以上と6以下の群に分けても同じような差が認められたとも記述されていた。いずれにせよ、タイトルにある「Hypermutated」と呼ぶには程遠い数字だ。

すでに、遺伝子異常数の多い患者では、免疫チェックポイント抗体治療の効果が高いことが示されており、この論文はその遺伝子異常をリキッドバイオプシーで評価したことに新規性があるのだろうが、臨床応用には遠いうえに、科学的に容認できない大きな問題点が二つある。変異数3以下と4以上で二つのグループに分けているが、調べた遺伝子数が54-70と幅がある点が最大の問題だ。70種類の遺伝子を調べて遺伝子変異4つあった患者さんでも、54種類の遺伝子しか調べないと確率的には3つの異常しか見つからない(遺伝子の大きさや調べる範囲の影響もあるので、単純な計算では比較できないが)。したがって、科学的に比較するならば、70遺伝子を調べたとしても、54遺伝子で揃えて解析すべきである。私が審査員なら、絶対に容認できないレベルのいい加減な方法論だ。

そして、変異数3で線を引いて二つの群に分けた根拠が明確でないことも問題だ。P値が最も小さくなる(統計学的な差が最も大きくなりそうな)所で線を引いたのならば、これも統計学的に不適切だ(複数の異なる数字で線を引いて検討したのなら、このレベルのp値で統計学的に意味があるとは言いがたくなる)。変異数の中央値で線を引いて2群に分類するならばともかく、49名と20名と偏った二群に分ける根拠が乏しい。さらに、進行がんでも、限られた遺伝子だけを調べる場合、リキッドバイオプシー検査が陰性の患者が数十%程度いる。このような症例をどのように評価していくのかも大きな課題だ。この論文は、流行の治療法+流行の検査法を組み合わせたので、審査の基準が甘くなったのであろうが、科学的に非常に雑な(複雑ではない)レベルとある。

とはいえ、肺や肝臓のバイオプシーに比べれば、血液を利用できるリキッドバイオプシーは、患者さんへの負担は格段に軽い。血漿中にあるDNAの量が限定的なので、一定の頻度の擬陰性(本当は陽性だが、検査結果が陰性とでる症例)は避けることができないが、バイオプシーによる患者さんの肉体的・精神的負担や合併症のリスクの軽減、採血による医療側の負担の軽減、医療費の節減などとのバランスを考えて議論し、方針を決定していく必要がある。

世界の動きは加速度がついているので、日本の周回遅れが大きくなっている、そんな気がしてならない。


編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2017年11月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。