あらためて「グローバル人材」の謎

恩師、竹内弘高先生(ハーバード大学教授 一橋大学名誉教授)の「インターナショナルビジネス」はたしか、冬学期の月曜1限だった気がする。履修してから22年後に、大学で「グローバル・ビジネス」という科目を担当することになるとは。同じく1限。週2回。なのに、結構な履修数。

第1回目のガイダンスで「グローバル人材」なる言葉についてのいくつかの定義を紹介したのだが、よく引用される産学連携によるグローバル人材育成推進会議(2013)による『産官学によるグローバル人材育成のための戦略』の定義がなかなか興味深く。

「世界的な競争と共生が進む現代社会において、日本人として のアイデンティティを持ちながら、広い視野に立って培われる教養と専門性、異なる 言語、文化、価値を乗り越えて関係を構築するためのコミュニケーション能力と協調性、新しい価値を創造する能力、次世代までも視野に入れた社会貢献の意識などを持った人間」

・・・こんな奴、いるのか。

学生たちと議論したが、「さて、誰が当てはまるだろう?僕らはもちろん、世にいる人のなかで」とワサワサした。超サイヤ人なみじゃないか。

そもそも「人材」という企業社会の言葉を教育機関が使うこと、インターナショナルとグローバルの違いに関しての説明が不十分であること、何よりも「日本人として のアイデンティティを持ちながら」という言葉が気になる。これらをすべて両立した人はなかなかいないし、育成できる企業はどれだけあるのだろうか。

なお、興味深かったのが、経団連が2015年に発表した「グローバル人材の育成・活用 に向けて求められる取り組み に関するアンケート結果」という調査(会員企業、非会員企業に対するもの)ではグローバル人材について、 「定義していないし、今後も定義する予定はない」と回答した企業が最も多いものの、経団連会員では「定義していないが、今後、定義する必要性を検討」する企業が95社(42%)で最も多かったという。

・・・定義していなかったんだ。定義って議論の前提なのだよね。

というわけで、いつの間にか、意味も分からない言葉を使い、大きすぎる夢を追っているねという話。こういうこと、多くないか。

「働き方改革」の不都合な真実
おおたとしまさ
イースト・プレス
2017-11-17


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編集部より:この記事は常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2017年11月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。