ワシントン発の米共和党のグラム上院議員の発言を読んで、「いよいよ近づいてきたのか」という印象を受けた。同上院議員は3日、CBSの会見の中で、「在韓米軍の家族を韓国国外に退避させるべき時が来た」と訴えたのだ。
米軍の対北軍事介入があり得るとすれば、約2万8500人の米軍兵士の家族がその前に韓国から退避しなければならない。換言すれば、軍兵士家族の退避が終了しない限り、米軍は絶対に戦争を始めないからだ。そして今、上院議員が「米軍兵士の家族の退避」を要請したというのだ。同議員の発言源はトランプ大統領府周辺にあることは間違いないだろう。
それでは朝鮮半島で米朝の軍事衝突が勃発する可能性が高まってきたと予想できるのか。中国の習近平国家主席の訪朝特使、同国共産党中央対外連絡部長の訪朝後の北京、平壌、そしてワシントンの対応を時間を追ってフォローしてみた。
以下は中国反体制派メディア「大紀元」の記事(11月29日)を参考にまとめてみた。
①習近平国家主席の特使、宋濤・中国共産党中央対外連絡部長が先月17~20日の日程で訪朝した。名目は10月に開かれた共産党大会の状況報告ということだが、実際は、習近平主席からの“通告”を伝える目的があったはずだ。しかし、特使は金政権でナンバー2の崔竜海・朝鮮労働党副委員長と会談できたが、金正恩氏との会見は実現できずに北京に帰った。
②先月20日、金正恩氏は最側近の黄炳瑞・朝鮮人民軍総政治局長と金元弘・同総政治局第一副局長を処罰したという報道が流れた。「大紀元」によると、「黄炳瑞氏と金元弘氏が金正恩委員長に中国側の説得に応じるよう勧めたことが理由」で、金正恩氏の怒りを買い、処罰されたというわけだ。また、ジンバブエの政権交代劇に中国が影響力を行使し、軍部を蜂起させ、ムガベ政権を打倒したように、中国は北朝鮮でも政権交代を目論んでいる。これを恐れた金正恩氏は軍幹部を処罰した、という憶測情報を報じている。
③中国の特使が帰国した20日、トランプ米大統領は北朝鮮を「テロ支援国家」と再指定した。同時に、北朝鮮の核開発に参与したとみられる中国などの企業13社に対して追加制裁を発表した。
④特使の帰国2日後、中国国際航空は、「需要低迷」を理由に北京―平壌間の航空便を無期限に停止。同時に、中国外交部は24日、遼寧省丹東市と北朝鮮の新義州市を結ぶ「中朝友誼橋」を“修復のため”臨時的に閉鎖すると公表した。「大紀元」によると、同橋を通じて中朝貿易の7割の物流が行われてきた。すなわち、中国当局は北朝鮮に通じる陸・空のルートを閉鎖する対応に乗り出したというわけだ。
⑤北朝鮮は先月29日、同国西部から日本海に向け大陸間弾道ミサイル(ICBM)の「火星15」を発射させ、射程距離約1万3000キロで米全土をその射程内に収めたと勝利宣言をした。
以上。①から⑤の動向は一見、密接な関係をもっているように感じる。それとも単なる偶然だろうか。当方は「大紀元」の記事と同様、米朝中3国の指導者の対応には強い関連性があると受け取っている。
ちなみに、金正恩氏は2013年12月13日、叔父の張成沢(当時・国防委員会副委員長)が正恩氏を追放する計画を中国当局と画策していたとして、叔父を射殺すると共に、親中国派の幹部たちを次々と粛清していったが、②の軍幹部の処罰はそのことを想起させる。また、親中派の金正男氏を今年2月、マレーシアのクアラルンプール国際空港で暗殺したことも思いださせる。金正恩氏は中国の支持に動く人物を許さないわけだ。
一方、④は第19回共産党大会(10月18日~24日)で権力を完全に掌握した習近平主席が金正恩氏を追放し、親中派の北朝鮮指導者をトップに立てることを決意した結果ではないか。2期目に入った習近平氏は江沢民派の親北党関係者の影響を受けることがなくなった。
そして今月3日、前述した米上院議員の「在韓米軍兵士の家族の退避要請」発言につながるわけだ。米上院議員の発言を最も深刻に受け取っているのは言うまでもなく金正恩氏だろう。このまま北王朝崩壊の日まで突っ走るか、戦略を変更し、なんらかの妥協を中国側に提示するかの選択肢に迫られている。
なお、米韓両軍は4日から合同軍事訓練「ビジラント・エース」を始めた。金正恩氏には、もはや多くの時間が残されていないのかもしれない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年12月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。