元イングランド銀行金融政策委員のブイター氏は11月20日付けの日本経済新聞において、現金の撤廃について下記のようにコメントしていた。
「第1に現金をすべて廃止すれば、金利のゼロ下限(または実効下限)制約がなくなる。」
中央銀行がマイナス金利政策を行って、預金金利をマイナスとしても、現金には当然ながらマイナス金利は適用できない。だからマイナス金利政策の効果が出にくい。このため、現金を廃止すれば、その効果が高まるとの見方である。しかし、本当にマイナス金利政策が需要を刺激できるのについては、かなり疑問が残る。
「第2に現金は決済手段として非効率だ。金融の発達した国では、もっと効率的な様々な決済手段が存在する。」
金融が極度に発達し、現金が国内であればどこでも安心して利用できるシステムが日本で構築されている。偽札の横行もほとんどなく、その意味では日本は金融の後進国ではありえない。日本では現金決済というシステムが高度に発達し、匿名性もあることで多少のリスクや費用が掛かっても現金を保有するというインセンティブが働き、その結果が100兆円もの現金流通量となっている。
効率的な決済とは、スマートフォンを使った非接触型決済などであり、中国でのアリペイなどを指そうが、中国は金融システムの発達が遅れ、現金が利用しにくいために、インフラ整備の遅れが、新技術の普及を広めていったとは言えまいか。
日本でもプリペイドカードを利用した少額貨幣での取引についてはキャッシュレス化は進んでいる。ただし、スウェーデンのスウィッシュや中国のアリペイやウィーチャットペイのように特定のアプリに集中していない。利便性の高くシェアの大きなアプリが出てくれば、一気に普及する可能性がある。
「第3に現金には匿名性が備わっているため、非合法取引の決済や犯罪者の価値貯蔵の格好の手段となっている。また脱税、資本規制逃れ、資金洗浄(マネーロンダリング)、犯罪やテロの資金調達が容易になるという弊害もある。」
現金は確かに匿名性を有しており、それが日本人の現金保有の要因のひとつになっている可能性はある。しかし、日本が脱税天国であり、マネーロンダリングやテロの資金調達に日銀券が大量に利用されていることは考えづらい。
「日本は先進国の中で現金決済の占める比率が極めて高いので、特に問題が大きいと考えられる」とブイター氏は指摘するが、日本の現金比率の高さは犯罪に使われているというより、発達した金融システムにより、現金利用が便利なためとも言えるのではなかろうか。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年12月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。