かつて、生命保険の主力商品は養老保険であった。これは、保険に貯蓄を抱き合わせたものである。ちなみに、こうした抱き合わせを、金融ではバンドリングと呼ぶ。経済環境の変化により、保険の社会的機能は貯蓄から死亡保障へ移行していく。貯蓄を主役として保険を付加した養老保険から、保険を主役として底辺に貯蓄を置いた定期付養老保険への転換である。
それでも、保険と貯蓄のバンドリングは根強く残ってきたのだが、現在では、貯蓄要素をもたない純粋な生命保険、つまり、古い言葉でいえば、掛け捨て保険も広く受け入れられている。その大きな理由は、貯蓄部分がなくなる分だけ、保険料が安くなるからであろう。バンドリングというのは、あからさまにいって、抱き合わせ販売なのだから、顧客が不要と考える機能をバンドリングしてはいけないのである。
また、バンドリングすれば、単品機能の価格が不透明となり、全体が割高に価格設定される可能性がある。故に、消費者が賢くなれば、自分の望む死亡保障だけに対して一番安い保険料を支払い、貯蓄は、別途、広い選択肢のなかから自由に選ぶ、そのような消費行動になっていくわけである。
消費者が変われば、保険会社も変わらなくてはならない。まさに今、そのような本質的な変革がはじまりつつある。バンドリングからアンバンドリング、即ちバンドリングの解体へということである。同時に、アンバンドリングされた各機能は、顧客の利益の視点でリバンドリング、即ち再度違う形態でバンドリングされることもあろう。
さて、生きるということが死ぬことよりも重大な意味をもつ、それが高度に成熟化した現代社会の病理的真実である。生きることの危険は、第一に、老後生活資金の枯渇、第二には、医療費負担である。故に、安心して長く生きられるためには、両方の危険が上手に付保されていなければいけない。
これに対して、賢い顧客を前提にして、アンバンドリングによる別々の保険や金融サービスで対応するのか、顧客の利益の視点で総合機能をリバンドリングするのかは、保険会社の高度な商品政策の問題であり、顧客者の選択の問題である。
仮にリバンドリングする方向へ向かうのならば、各要素についての保険料の公正妥当性が保証されたうえで、バンドリングされなくてはならないし、消費者の個別の需要に対して適切に対応できるように、設計の自由な選択肢も必要である。こうした保険会社の営業姿勢が金融庁のいう顧客本位なのである。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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