過労死漫画がベストセラー?死ぬまで頑張ってはいけない

尾藤 克之

画像は本記事紹介の書籍より。出版社許可にて掲載。

12月にはいったので、今年の振り返りとして、印象に残った書籍を紹介していきたい。12月7日に投稿した「日本一早いビジネス書ランキング」が、結構話題になっていたようで、気がついたらアゴラ本体でも700以上のシェアを獲得していた。

ランキング(一般部門)2位で紹介したのが、『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由(ワケ)』(あさ出版)。読売新聞、朝日新聞、毎日新聞、など主要新聞でも取り上げられた過労死漫画である。先日、『NEWS23』(TBS)にて特集が組まれ反響があったようだ。現在12万部を超す大ヒットを記録している。

“死ぬ辞め”がヒットした社会的背景

厚労省(自殺対策白書)によれば、2016年に自殺した人は、21,897人となり、22年ぶりに22,000人を下回ったことが明らかになった。年代別では15~39歳の死因第1位は「自殺」である(40歳以上、死因1位は悪性新生物)。15~39歳の死因第1位「自殺」は、先進国では日本のみで見られる現象であることから対策が急がれる。

従来から、若者の自殺率の高さは指摘されていた。しかし、調査結果からは、若者の自殺以外に、中高年(50代)の自殺も顕著であることがわかった。かなり衝撃的な結果といえる。このような世相も相まって、本書は大きな話題をよんだ。汐街コナさんの体験を、精神科医・ゆうきゆうさんが解説する言葉に多くの人が共感した。

「死ぬくらいなら辞めればができないのは、判断力が奪われてしまうからです。自分のことを思い返すといろいろ理由はありますが、他人を中心に考えてしまうことがありました。『会社や顧客に迷惑がかけられない』『親に心配はかけられない』『デキないヤツに思われたくない』『世間体が・・・』などがあげられます。」(汐街さん)

「人を優先して自分を後回しにしているうちに、手遅れになってしまう危険性があるように思います。まずは、自分の命と人生を最優先に考えることが必要です。」(同)

汐街さんの母親は、ハローワークで働いていた経験があった。そして次のような話をしてくれた。「今日来た人、会社の指示通りに仕事をした結果、身体が不自由になってしまった。会社は責任もとらずクビにした。会社はいざという時、なにもしてくれないから、自分で守らなくてはいけない」。そのようなことを話したそうだ。

「昔のことですが『自分の身体がおかしくなっても我慢してはいけない。会社はいちいち大丈夫かなんて考えてくれない。それでおかしくなっても自分で気をつけなかったのが悪いって言われて終わってしまう。誰も責任をとらない』。このようなことを言われたように記憶しています。若干、少し言葉じりなど違うかもしれませんが。」(汐街さん)

会社や仕事にしがみついてはいけない

そして、残業三昧の日々、あるとき駅で幼馴染に出会う。互いの近況を報告し合うと、幼馴染に会社を辞めるようにすすめられる。汐街さんは言い返した。「いやそういう問題ではない。夜10時前に帰ろうとすると叱られる。終わらなければ深夜はあたり前」。力説するが、「なんでそんな会社に勤めているの?」と一蹴されてしまう。

「働き方改革」も大分浸透してきた。「働き方改革」は、一億総活躍社会の実現に向けたチャレンジであり、日本の企業や暮らし方を変えるものとして提唱された。厚労省が一人ひとりのニーズにあった、納得のいく働き方を実現するため提唱したのだから一定の意味はあるのだろう。しかし、その実現は難しい。残業は絶対に無くならない。

早く帰宅することを好ましくないと考える会社は少なくない。私が知っている某大手メーカーは、社員が働いているオフィスの出入り口付近に、役員席と事業部長席を置いていた。定時が過ぎても社員は帰ることができない。早く帰れば査定にも影響する。変化が起きたのは過労死自殺が発生してからだった。しかし、役員も事業部長も弔問には訪れなかった。

「幼馴染に『辞めれば?』と言われたことを、意外なほど素直に受け止めることができました。必死にしがみついていたのが、どうでもいいように思えました。『辞めればいい』と理解していても現実には考えにくい選択肢でした。幼馴染のこの言葉で『辞めること』が、現状を一気に解決する方法であることに気がついたのです。」(汐街さん)

厚生労働省「人口動態調査」の集計によれば、1年でもっとも自殺者が多いのは、夏休みが終わるの9月1日前後、2番目が新年度の4月1日~10日、3番目が正月明けになる。会社も上司も解決策を提示してはくれない。だから、あなた自身が自らを客観視しなければいけない。休み前に読むべき本として紹介しておきたい。

尾藤克之
コラムニスト