米国連邦通信委員会FCCがネット中立性規制を撤廃した。ネットを道路に例えると、どんな車両(コンテンツ)も区別なく順番に通過させなければならない、というのがネット中立性規制である。中立が強いられると、大型車両(大容量のコンテンツ)が道路をふさぎ徐行運転を強いられる事態も起き得る。
中立性規制が廃止されれば、特定のコンテンツを優先して通過させられる。ブロードバンドの提供事業者が系列サイトの動画を優先的に流せれば、動画が途切れることなく視聴できるようになる。FCCは中立性規制の撤廃はイノベーションを加速すると考えている。
FCCは報道発表に「FCCはインターネットの自由を復活させる」というタイトルを付けた。インターネットを、公平性が求められる通信サービスとして位置付けてきたのをやめ、より自由な「情報サービス」に分類するというのが決定の中心である。
ネット中立性規制撤廃で事業者には自由が与えられた。しかし条件も付いている。コンテンツをブロックしたり加速したり、特別料金を支払った利用者に高速サービスを提供したり、系列サイトのコンテンツを優先したりといった情報を事業者は公開しなければならない。情報公開による透明性の確保と多くの事業者による市場競争、それに独占禁止法や消費者保護法によって、ネット中立性規制が実現した社会的利益をより低コストで実現できるというのがFCCの考え方である。
FCCの決定と連動するように、司法省はAT&Tによるタイムワーナーの買収を阻止するように動いた。コンテンツ提供企業とネット事業者の垂直統合に独占禁止法の観点で疑問が呈されたのである。
FCCの決定には反発も起きている。コンテンツを分類することは情報統制につながると考えるリベラル派が代表である。ネット中立性規制はリベラル派が支配していた2015年にオバマ政権下で実施されたもので、市場の自由を強調するトランプ政権が覆したことになる。そもそも報道発表にあった「インターネットの自由」はリベラル派によって言論の自由の文脈で語られてきた。それをトランプ政権は商業活動の自由に置き換えた。
ウォルト・ディズニーが同業の21世紀フォックスの映画事業などを買収するというニュースも流れてきた。インターネット動画配信サービスの強化が狙いだという。米国のメディア・通信業界に起きている急激な変化から目が離せない。同時に、楽天の携帯事業が自社のサービスを優先的に流すようになるかも気になる。