大丈夫かなぁ?#Metooムーブメント

田中 紀子

はあちゅう氏ツイッターより:編集部

先日のブログ、アゴラに掲載して頂いたので、是非、ご一読下さい。
「ノンストップ」にみる薬物報道の現在

詩織さんが過去のレイプ事件を告白し、山口氏を糾弾した際には、「なんて勇気ある女性なんだろう・・・」と感嘆し、本当に応援したいと思ったし、今も心から応援しています。この事件、どうか真実があばかれますように。

こうして日本でもレイプ被害の告白が始まり、さらに同時期に海外でもハリウッドのセクハラ告発が盛んになり、そのなかの女優のアリッサ・ミラノさんが、セクハラや暴行の被害を受けたことのある女性たちに、
「#Me Too」とツイッターで呼びかけるように訴えたことから、現在、世界中に#MeTooムーブメントが広がっています。

これを受けて、人気ブロガーの「はぁちゅう」さんが、電通時代のセクハラについて実名告発し、相手の男性が、現在ご自身が代表取締役となっていた会社の役員を辞任しました。

この件で、はぁちゅうさんが、
「#Metooのムーブメントが背中を押してくれました」
とおっしゃったことで、今後もこういったケースが追随して出てくるかと思います。
セクハラ天国の日本で、やっと女性達の想いが伝えられるようになったことは、本当によかったと思っています。

ただ、この#Metooムーブメントは本当に大丈夫なの?と不安でなりません。
そもそも自分の性暴力・レイプの被害にあった人達は、おそらくそのトラウマで長年苦しんでいます。

私も、依存症の世界に、長く身を置いていますから、こういった事件がどれほど深く、被害者に根差し、後の人生に影響するかよく知っています。性暴力のトラウマは過去になっていかず、いつも自分の心のブラックボックスで、まるで昨日のことようにべったりと張りつき、自分自身を大切にすることができなくなります。

被害にあった身体を「汚い」と愛することができなくなったり、逆に自暴自棄になって、男性と愛のないSEXを繰り返すようになったり。その後の症状は様々ですが、小澤雅人監督の映画「月光」でも取り上げられたように、その重篤な後遺症のために「魂の殺人」と呼ばれているわけです。

そして、これらトラウマからの回復で、一番大切なことは、絶対に秘密が守られる安全な場所で、安心できる人と回復プログラムを行うことだと思います。

経験のある援助者やカウンセラー、セラピストのもとで、少しずつ行われるのが普通で、いきなりトラウマをとりだす蓋をあけたりすると、のちのち心のバランスを崩し、立ち上げれなくなってしまいます。
我々も、ものすごく慎重に取り扱っています。

また、こういったトラウマのある人達は、それが「トラウマ」だと分からない人もいます。
人生に起きている人間関係のトラブルが、実はトラウマから来ている場合があるのですが、本人はそんなこと気がついていません。

もしこういう人達が、現在の「#Metooムーブメント」の勢いにのって、告発や告白をした場合、のちのちダメージを受けることにならないか?トラウマにさらなるトラウマが重なり、万が一にも死を選ぶことにならないか?それらがとても心配で気がかりです。

また、アメリカと日本では、性暴力に関するトラウマ治療ができる機関や支援者の数が圧倒的に違います
私が、アメリカに研修に行った際に、何が一番驚いたって、レイプなどの性暴力被害にあった人達の、治療メソッドがすごく充実していたこと、これに本当に心から感嘆しました。

日本でその辺のカウンセリングルームで、性暴力被害など告白しようものなら、二次被害にあう確率は非常に高いです。よほど慎重に探さないと、治療メソッドなんかないです。

ですから、アメリカのハリウッドで火がついたからと言って、安易にこのムーブメントを日本で煽って本当に大丈夫なのか?私はとても心配です。

告白者も告白した時はよいかもしれませんが、その後、サポートしてくれる人はいるのか?
トラウマのケアは十分にやっているか?
誹謗中傷などの対策はあるのか?
などなど、慎重に考えて欲しいと思います。

何も声をあげなくてはいけないわけではありません。
ご自身のケアを十分にやり、表に出ない形で、専門家の力を借り、法的に対処することも十分可能です。
必ずしも、あなたの体験を声をあげて発言しなくちゃならないわけではないのです。
どうかこのムーブメントを誤解しないで下さいね。

名乗りをあげる人も勇気ある方ですが、名乗りをあげずに、辛い体験を克服しようとしているあなたも、勇気のある人なのです。

トラウマへの対処、特に性暴力のトラウマケアを、安易に考えない方が絶対に良いです。
そしてこういった魂を切り裂かれるような、辛い経験をした方々が、その代償をきっちり求めることは、もちろん当然に行うべきことだと思いますが、それをムーブメントとして扱うことに、非常に違和感を感じています。

今も辛い記憶に悩む仲間達の支援をする私から見ると、
「#Metooムーブメント」という言葉は、
あまりに軽すぎて、なじめないです。


編集部より:この記事は、一般社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表、田中紀子氏のブログ「in a family way」の2017年12月20日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「in a family way」をご覧ください。