今年最後になる(はずの)羽田空港にいる。今回も忙しかったが、雑誌の取材、テレビの収録、役所の知人や医師との会合の中で、多くの心の波長の合う方々に出会った。本当に心と心が感じあった人たちの集合が世の中を動かせるのだと信じている。そして、そんな人たちとの出会いは決して多くない。会合の際に、ある人に、「大石内蔵助になって、人を束ねていくことが必要だ」と言われたが、「それでは義を果たした後、最後には切腹しなくてはならないので嫌だ」と返答し、笑いを取った。赤穂浪士も脱落する侍はいたが、武士の誇りを最後まで貫いた人があれだけいたのだ。50人近い人たちが同じ志を求め、それを束ねる大将がいれば、願いはかなうはずだ。もちろん、死んでもいい覚悟が必要だ。
しかし、日本の大手メディアの凋落はどうしたことか?昨夜も含め、相撲協会の話題にあれだけの時間を割くのは、余程、日本は平和ボケしているのでだろうと感じた。トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定したことは、北朝鮮問題よりは世界的に大きな影響を及ぼすことなのだが、ほとんどスルーの状況だ。「Merry Christmas」はイスラム圏では通じないので、「Happy Holiday」という表現が多くなっている。無宗教に近い日本では、何でもありだが、信心深い人にとっては、何でもOKではない。相撲の事件など、突き詰めれば、取るに足らない単なる酒の席での暴行ではないのか?ましてや、依然として被害者の傷の重さはわからない。いったい、何を根拠の処分なのか、見ていて訳が分からない。暴力はいけないという綺麗ごとが先行しての魔女狩りのような感がある。
そして、免疫療法バッシングなどもひどい話だ。「免疫療法にはエビデンスがない」と馬鹿の一つ覚えのように言っている医師も多いようだが、科学的思考力の停止状態だ。今の日本に必要なことは、欲ボケの白衣を着た詐欺師を排除し、世界の潮流に乗ることができるような免疫療法研究開発体制を構築することだ。味噌と糞の区別がつかないメディアの素養が低すぎるのだ。少し離れていても臭いで区別できるだろうに、そのレベルの違いさえ、かぎ分けられないのだろう。
来年のがん治療は、間違いなく「リキッドバイオプシー」と「免疫療法」を中心に大きく展開していくだろう(今年からそのようになっているとも言えるのだが)。そして、今頃、遺伝子パネルの導入に躍起になっているようだが、米国と比べれば5年以上も遅れている。技術の進歩に伴い、全エキソン解析も簡単にできるようになっているのに、日本の時の流れは亀の歩みのようだ。孫子の兵法では、敵の情報を知ることは戦いに勝利するための基本の基本だ。いつまで、ガラパゴス島のように情報や科学の進歩から隔離されて状況で生きていくのだろうか?
私は今回の滞在で、多くの心の波長が合う方々と出会ったように感じている。彼らの協力を得て、大きな流れを作り出していきたい。もちろん、日本でだ。
編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2017年12月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。