今、金融機関の経営管理のあり方は、抜本的な転換を求められている。そのなかで、注目されているのがリスクアペタイトフレームワークである。さても、リスクに対する食欲とは、どういうことか。リスクは金融機関の食物なのか。リスクに、おいしい、まずい、はあるのか。
リスクアペタイトフレームワークというのは、まだ新しく、2013年11月に金融安定理事会(Financial Stability Board)が公表した「実効的なリスクアペタイト枠組みに係る原則」(Principles for an Effective Risk Appetite Framework)において、初めて概要が整理されたものである。これは、その名のとおり、金融機関としての健全なるリスクへの食欲、事業目的遂行のために自覚的にとるべきリスクを前面にだした経営の枠組みである。
日本では、金融庁が2015年9月に公表した「金融行政方針」において、リスクアペタイトフレームワークに言及された箇所に注が付されていて、「自社のビジネスモデルの個別性を踏まえたうえで、事業計画達成のために進んで受け入れるべきリスクの種類と総量を「リスクアペタイト」として表現し、これを資本配分や収益最大化を含むリスクテイク方針全般に関する社内の共通言語として用いる経営管理の枠組み」と説明されている。
また、一つ前の年度の2014年9月に公表された金融庁の「金融モニタリング基本方針」でも、「フォワードルッキングなリスク管理」を求めるなかで、リスクアペタイトフレームワークへの言及があって、そこには、括弧書きで、「経営陣等がグループの経営戦略等を踏まえて進んで受け入れるリスクの水準について対話・理解・評価するためのグループ内共通の枠組み」と説明されている。また、関連したところで、「自行のビジネスモデルにおけるリスクの所在を理解した上で」との言及もある。
それにしても、僅か2年で、金融庁の理解として、「自社のビジネスモデルの個別性」を強調し、「進んで受け入れるリスク」から、より能動的に、「進んで受け入れるべきリスク」へと、高度化していることがわかる。
では、既に、日本の金融機関でも、適用されているのか。少なくとも、現段階では、金融庁は、リスクアペタイトフレームワークの適用を、メガ銀行等に限定している。そして、2015年の「金融行政方針」では、メガ銀行等に対して、検証項目として、「リスクアペタイトフレームワークの構築を通じ、経営レベルでのリスクガバナンスの強化を図っているか(将来の経済や市場のストレスを勘案したきめ細かな収益管理や機動的な経営方針・資本政策の見直しを含む)」という点をあげている。
実際、メガ銀行等においては、2014年度あたりから、リスクアペタイトフレームワークの構築がなされてきているが、その公表された内容をみても、また、金融庁の検証項目をみても、現在の課題がフレームワークの形式的整備にとどまっており、そのフレームワークの中身の充実については、ほとんど進捗していないと思われる。はっきりいって、形だけで、中身なし、といっても過言ではない。それがリスクアペタイトフレームワークの日本における現状である。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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