今後の物価上昇シナリオもありうるか

12月26日に発表された11月の全国消費者物価指数は総合指数が前年比プラス0.6%と10月のプラス0.2%からプラス幅を拡大させた。日銀の物価目標となっている生鮮食品を除く総合は前年比プラス0.9%と10月の0.8%から小幅拡大させた。生鮮食品及びエネルギーを除く総合も前年比プラス0.3%と10月のプラス0.2%から拡大させた。

ガソリン価格の前年比値上げ幅が拡大したほか、食品や外国パック旅行費などが指数を押し上げた格好となった。電気代やガス代、携帯電話料金は押し下げ要因となっていた。

物価はじりじりと前年比プラス幅を拡大させているものの、日銀の物価目標の2%にはまだ距離があり、これによって日銀の長短金利操作付き量的・質的緩和政策が調整されることはないというのが一般的な見方になろうか。

26日には10月30、31日に開催された日銀金融政策決定会合議事要旨の発表もあったが、このなかで以下の記述があった。

「一人の委員は、資本および労働市場の双方において過大な供給余力が残存していると見込まれるほか、2019年の消費税率の引き上げを踏まえ、現時点で追加緩和策を講じ、「物価安定の目標」の早期達成への確度を高めるべきであると主張した。」

上記の発言は片岡審議委員によるものと思われるが、ここで注意したいのは追加緩和についてではなく、「2019年の消費税率の引き上げ」の部分である。

前回の消費税の引き上げは2014年4月であったが、消費者物価指数(除く生鮮)は2013年4月の日銀の量的・質的緩和政策の導入時の前年比マイナス0.3%から、消費増税の引き上げが実施された2014年4月にはプラス1.5%にまで上昇した。

しかし、2014年4月以降の消費者物価指数(除く生鮮)の前年比はプラス幅を縮小させ、2015年2月にはゼロ%となっていた。

これは一見、日銀の異次元緩和が効果を発揮して物価を前年比1.5%まで押し上げたが、消費増税によって個人消費が低迷し、人々の予想物価も低下し、その結果物価はゼロ%を下回ってしまった、かに見えなくもない。そうであれば、片岡委員の発言に意味はありそうにみえるが、本当にそうであろうか。

そもそも2013年4月の日銀による異次元緩和導入時から消費増税時までの物価の上昇は、急激な円安、それによる株高と株高による地合の改善、そもそもの円高株安の大規模な調整の背景にあった世界的規模のリスクの後退、それによる欧米の景気の回復、さらには消費増税前の駆け込み需要と便乗値上げ等によって説明ができるのではなかろうか。

消費増税後の物価の低迷は原油価格の下落も大きな要因となった。消費増税が実施された2014年4月に100ドル程度で推移していた原油先物(WTI)は2015年入り50ドルを割り込んでいた。消費者物価指数は原油価格に大きな影響を受けているのは言うまでもない。

前置きが長くなってしまったが、結果として何が言いたいのかといえば、2019年10月の消費税の引き上げに向けて今後、物価が上昇していく可能性があるという点である。片岡委員は消費増税後の事を心配しているのかもしれないが、その前に消費者物価指数は日銀の物価目標に再び接近する可能性もある。

これには原油価格が上昇気味に推移し、日米の金利差なども意識しての円安ドル高なども想定し、そこに今回も駆け込み需要や便乗値上げが絡むといった想定も必要となる。むろん、これも日銀の異次元緩和の影響によるものではなく、外部要因によるものではあるが、そんなシナリオも描けるのではなかろうか。これで日銀が出口に向かうのかはさておくが。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年12月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。