出口でなく入口が始まった
金融政策の専門家だった知人と新年会で、「日銀の異次元緩和の出口はいつになるか」を話題にしたら、「日銀の出口より、財政危機からの出口を決めるのが先だ」との指摘を受けました。日銀だけで出口の時期、規模を決められない状態だと、いうのです。
日銀による大量の国債購入は、消費者物価の引き上げ(目標2%)やデフレ脱却のためというより、財政ファイナンスという財政支援が重要な目的になってしまっているとの指摘は常識になっています。
そのため、「日銀が先に出口を考えないと、財政規律は今後も失われ、財政赤字が拡大する」とする日銀先行論がよく聞かれます。「実は順序が逆」というのが知人の指摘です。安倍政権の下で、何度も先送りになっている財政再建目標を確立し、消費税も10%に引き上げ、財政問題の出口にまずたどりつくべきだと、いうのです。
新聞のスクラップを整理していましたら、もっときつい指摘がありました。
「日銀の国債大量購入は、意図に反して財政赤字を埋める財政ファイナンスに変性しまっている」。
三菱系の研究所の五十嵐敬喜氏の主張で、その通りでしょう。
新たな入口とは
さらに「日銀が国債購入を止め、保有額を減らして行くことが出口だとすれば、そのような出口はない。長期金利の低位安定を維持するには、国債購入をむしろ増やしていかざるをえないからだ」、その意味で新たな「入口」にきてしまったというのです。
安倍政権は異次元緩和によって、国債を日銀に持たせ、その結果、超低金利・ゼロ金利、つまり財政の金利負担が極めて少ない状況が続いています。国債残高は約1000兆円ですから、異次元緩和の方向転換で金利が1%上昇しだけで、何兆円もの金利負担増になる。異次元緩和で財政赤字の本当の姿が隠されてしまっているのです。
財政赤字の抑制と異次元緩和が一体となり、異次元緩和に抱かれた財政状態を、「入口」に入ってしまった見ているのです。つまり異次元緩和から抜け出ようとすると、金利が上がる。低金利を維持しようとすると、日銀はいつまでも国債を買い続ける、です。
異次元緩和の出口と財政再建を別々に論じる専門家がまだ多いようですね。一例は日銀にいたことのある金融専門家のインタビュー記事です。「今の時点で方針転換(出口)すれば、デフレ脱却を目指す日本の姿勢について誤ったメッセージを世界に発信してしまう」と懸念し、一方「実現可能な財政再建目標(基礎的財政収支の黒字化)を示さなければならない」と、別々のことのようにも述べています。(読売9日)
緩和の長期化で深まった依存症
安倍政権は20年度の財政再建目標をすでに断念しています。2,3年の先延ばし、あるいは20年代半ばへの先延ばし観測が流れています。財政緊縮より、経済成長を加速させれば、税収が増え、財政再建につながると考えているのでしょう。何度も失敗してきた経済成長による財政再建の夢を捨てきれていません。
いったん、異次元金融緩和への道を選択してしまうと、泥沼から抜け出せなくなる。当初から指摘されていた問題です。金融の出口が先行すると、国債金利が上昇し、財政赤字が増える。だから財政再建の道筋がはっきりしないうちは、金融先行は難しいのです。
黒田総裁も頭を抱えていることでしょう。国債購入を最近は少しづつ、減らしており、金融の出口を模索しているとの見方もあるし、市場の動向に合わせているだけで政策変更ではないとの見方もあります。何も考えていないと見られるより、どっちつかずに受けとめられている方が都合はいいかもしれません。
とにかく異次元緩和は、絡み合った糸を解きほぐすような困難な作業が求められる。物価の2%上昇が達成されず、いつまでも異次元緩和を続けていると、糸はさらに絡み合ってくるということです。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2018年1月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。