「CA Cancer Journal for Clinicians」誌のオンライン版で「Proportion and Number of Cancer Cases and Deaths Attributable to Potentially Modifiable Risk Factors in the United States」というタイトルの論文が公表された。日本語で意訳すると「人為的に減らす可能性がある危険因子が関与する、がんの発症数や死亡数とその割合(米国)」といったところか?生活要因やウイルス感染症などが、がんリスクに関わることはよく知られているが、この論文は、それぞれの要因のがん死亡への寄与度を数字で示したものだ。
改善することのできるがん関連リスク因子(米国、30歳以上のケースで推測)
とあった。
米国のがんによる死亡数は約60万人であり、禁煙対策や肥満対策で多くのがん死を減らすことができる可能性がある。正確な表現ではないが、この表からは、喫煙をなくすと、がんの死亡数を25%、肥満予防で6.5%減らすことができる可能性があるということだ。今でも、喫煙の影響を否定する人たちがいるが、科学の世界では絶対に受け入れられない話だ。「喫煙や飲酒は欠かせない、野菜は大嫌いだ、運動したくない」は、もちろんそれぞれの自由だが、喫煙や過度の飲酒ががんリスクを高めている科学的事実は否定できない。利権が科学的事実を歪めることがあってはならない。
そして、日本として大きな問題は、パピローマウイルス(HPV)感染予防だ。HPV感染症は、子宮頸がんだけでなく、頭頚部がんにも関連している。この観点から、女性だけでなく、男性にもワクチン接種を勧める動きがある。先進国では例外的に日本だけが、子宮頸がんワクチン接種が足踏み状態にある。原因は明白で、科学的な根拠ではなく、情緒的煽動で、必要な施策が捻じ曲げられているからだ。いつもエビデンスが重要だと言っている国立がん研究センターは、この問題には頰被りのようだ。10-20年後、日本だけが子宮頸がんによる死亡数が高止まりした場合、誰が責任を取るのか?科学的素養に欠けるメディアか、役所か、それとも、国立がんセンターか?
編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2018年1月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。