【映画評】ぼくの名前はズッキーニ

渡 まち子

9歳の少年イカールは、母がつけてくれた“ズッキーニ”というニックネームを大切にしていた。だが不慮の事故で母が亡くなり、ズッキーニは同年代の子供たちが共同生活を送る孤児院・フォンテーヌ園で暮らすことになる。最初は周囲になじめずにいたズッキーニだが、心優しい問題児のシモンやちょっと大人びた少女カミーユらと親しくなり、次第に心を開いていく。園にいる子どもたちは同じような境遇で問題を抱えている子ばかりで、ズッキーニは彼らとかけがえのない友情を深めていくが。…。

フランス発のストップモーションアニメ「ぼくの名前はズッキーニ」。子どもたちの繊細な心理描写と、ティム・バートンの「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」を思わせるようなユニークなパペットのビジュアルが特徴的な、珠玉のアニメーションだ。現実社会の厳しさをしっかりと描いているが、行き場のない子どもたちとって孤児院が小さな癒しの場となっている点が興味深い。扶養手当欲しさにカミーユを引き取ろうとする叔母を子どもたちが出し抜くシークエンスは優れたサスペンスだし、それぞれ運命は違っても友情で結ばれた子どもたちの絆には、胸が熱くなる。

同じストップモーションアニメの「ウォレスとグルミット」の洗練や「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」の華麗さに比べると、技術的には劣っているし動きもぎこちない。だが本作はそれが欠点にならず、むしろ素朴で牧歌的な作風と物語とがフィットしているように感じた。少年の孤独、切なさ、不安。長い長い時間をかけて丁寧に作られるストップ・モーション・アニメがそれらを存分に表現している。どう生きていけばいいのか、希望を持っていいのか、友情は永遠か。まだ答えがみつからず迷いながら光の見える方向へと踏み出したズッキーニの姿が、いつまでも記憶に残る。アカデミー賞をはじめ、世界中の映画祭で絶賛されたのが納得の秀作アニメだ。
【70点】
(原題「LIFE AS A ZUCCHIN/MA VIE DE COURGETTE」)
(スイス・仏/クロード・バラス監督/(声)峯田和伸、麻生久美子、リリー・フランキー、他)
(ユニーク度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2018年2月12日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Twitterから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。