韓国・平昌冬季五輪大会が開催されて以来、関心が朝鮮半島に向かい、欧州の政情フォローが疎かになってきた感じがしていた時、ポーランドの興味深い政策が報じられた。このコラム欄でも報じた「ユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)関連法案」が施行されたが、今回はその続編ともいうべき内容だ(「ポーランドの『ホロコースト法案』」2018年2月2日参考)。
ポーランド上院のスタニスワフ・カルチェフスキ議長は外国居住のポーランド国民宛てに書簡(3頁)を送り、その中で「反ポーランドの言動があったら、それを最寄りの大使館、領事館を通じてワルシャワに連絡してほしい」と訴えたのだ。
同議長は、「第2次世界大戦中の蛮行、非人間的な戦争犯罪の証拠を集め、それを文書に整理しなければならない」、「わが民族の評判を落とす反ポーランド的な全ての言動を集め、それを文書化してほしい。海外居住の同胞たちよ」、「わが国の大使館、領事館に国の名声を中傷する如何なる言動も隠さず報告してほしい」と強く呼びかけている。
その上で、「自分はポーランドのディアスポラとその保護に責任を担っている立場だ」と書簡の中で述べ、「ユダヤ人、ポーランド人、ロマ人など迫害されてきた民族の犠牲者への不正な言動を忘却から守るためだ。歴史的真実を効果的に想起できるセミナーや展示会、手紙キャンペーンなどを組織化してほしい」と海外居住ポーランド人に協力を求めている。
ポーランド上院は1月31日、物議を醸した「ユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)に関する法案」(通称「ホロコースト法案」)を賛成57、反対233、棄権2の賛成多数で可決した。そしてアンジェイ・ドゥダ大統領の署名を受け、同改正法案は施行された。
「ホロコースト関連法案」はユダヤ人強制収容所を「ポーランド収容所」といった呼称をつけたり、ポーランドとその国民に対し、「ナチ・ドイツ政権の戦争犯罪の共犯」と呼んだ場合、罰金刑か最高3年間の禁固刑に処す、という内容だ。
もちろん、予想されたことだが、イスラエル政府や歴史学者からは、「第2次世界大戦時、ユダヤ民族に対するポーランド人の戦争犯罪を隠蔽するものだ」といった強い批判の声が挙がっている。イスラエル政府だけではなく、米国、フランスからもポーランドの民族主義的なPiS政権への批判が出てきている。
中道右派「法と正義」(PiS)政権が推し進めるポーランドの民族主義的政策に欧州連合(EU)の本部ブリュッセルは首を傾げる一方、「言論の自由」を蹂躙しているとして批判的だ。
ポーランド民族は過去3度、プロイセン、ロシア、オーストリアなどに領土を分割され、国を失った悲惨な経験を味わった。そのためか、為政者(統治者)に対する批判精神は鍛えられたが、統治能力は十分発展せずに今日に到っている。他国の批判に過敏に反応する傾向はPiS政権になって一層強まってきた感がする。今回の上院議長の書簡は外国居住の自国民に一種のスパイ行為を要請するような内容であり、危険だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年2月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。