自民党の社会的養護議連に参加し、里親支援のベストプラクティスと言われる、福岡市児童相談所(福岡市こども総合相談センター)の話を聞いてきたので、まとめました。
社会的養育ビジョンも出され、施設一辺倒の状態から里親という受け皿を増やしていかねばなりませんが、そのHowの部分は中々社会的に共有されていません。
福岡市児相のあり方は、多くの学びをもたらしてくれるでしょう。
福岡市児相における里親委託推進のはじまり
福岡市児童相談所には常勤の弁護士がいます。親子分離等、非常に難しい決断を迫られる児童相談所には、昨今弁護士を置く事例は増えつつあります。
また、社会的養護に特化した、里親係と家庭移行支援係を設置している点が、ユニークな点です。
平成16年度(2004年度)に、虐待等が増加し、近隣の児童養護施設が満杯になってしまい、遠く県外の児童養護施設に子どもたちを入所させざるを得なくなってしまったそうです。
子どもを地域から切り離してしまうと、学校も変わらなくてはならないし、完全にひとりぼっちになってしまい、子どもにとっても良くない。
かといって、市内に新たに児童養護施設をつくるのは予算的に難しい。そんなことから、里親委託を検討するようになったそうです。
しかし、委託可能な養育里親はなかなかいません。
カナダではNPOが里親の普及啓発を行なっていることをしり、福岡市でもNPOと一緒に里親の普及啓発をしてみようとなりました。
それが功を奏し、里親登録は増加していきました。
NPOとの付き合いができた福岡市児相ですが、福岡には時を同じくして社会的養護のプロの国際的NPO、「SOS子どもの村JAPAN」さんが設立されました。
SOS子どもの村さんは、国連子どもの代替養育(親のいない子どもを養育すること)のガイドラインをいちはやく翻訳されました。
ここで、国際的なスタンダードである「乳幼児の家庭養育原則」や「パーマネンシー(永続的な養育)保障」という視点を獲得していきます。
当初は「施設がいっぱいなので、里親を探そう」というところから始まった福岡市児相ですが、徐々に「家庭を必要とする子どもに、里親家庭を提供し、子どもの育ちを保証していこう」と変わっていきました。
そして、一時的な里親だけでなく、永続的な居場所である家庭を提供しよう、永続性を保障しようということで、特別養子縁組を志向するようになっていきました。
普及啓発が功を奏し、また職員の意識も変わり始めていった福岡市児相でしたが、里親委託の増加とともに、養育困難事例、そしてやむなく里親から他の里親やファミリーホーム等へ措置変更になる、というケースも出てきてしまいました。
特に思春期で反抗期を迎えた子ども、発達障害のある子どもの養育には、大きな課題を抱えました。
普通であればここで「里親じゃ無理だから、施設にどんどん送ろう」となるところを、福岡市児相は踏みとどまりました。
里親委託を縮小するのではなく、児相内の里親担当職員の人数や専門性を強化していく方向に舵取りしたのです。
それに伴い、里親係を増員していきました。
一般的に里親不調と言われる現象は、養育しづらい子どもや里親自身に起因するものと捉えがちですが、マッチングも重要な要因である福岡市児相では考えています。
里親と子どもの「絶妙のマッチング」が、その後の不調を軽減していくのです。
全国の里親委託状況
ここまで福岡市児相の取り組みを見てきましたが、目を転じて、全国の里親委託率のデータを見ていきましょう。
平成18年度(2006年度)では9.5%でしたが、10年後には18.3%まで伸びています。10年で2倍と言うと、順調な伸びのように思えますが、1年でたった1%程度の伸び率です。
これでは20年後も里親委託率は50%に満たない水準になってしまいます。欧米では既に8割以上が里親や養子縁組等の家庭養護が主体になっているにも関わらず。
「大きなパラダイムシフトが必要だ」と福岡市児相所長の藤林さんは言います。
ではどうやって里親委託率を伸ばしていけるのか。
それを考える時に、欠かせないのは現状分析。「なぜ里親委託率が思うように伸びてないのか」を分析しなくてはいけません。
その理由の一つが、里親業務担当職員の少なさ。
専任児相職員は平均0.5人。里親委託等推進員は平均1人弱。「チーム」になるには3人はいないとだめですが、両方合わせて児相に3人以上配置しているのは、全国でもわずか8自治体にすぎません。
片手間と言ったら語弊があるかもしれませんが、非常に少ない資源しか割けていないがゆえに、里親委託が進まないのです。
結果的に、里親の新規登録は少ないまま、さらにはせっかく登録されても、未委託のまま活用されない未委託里親の列ができていくのです。
全国的には低調な中、里親委託率を伸ばしている自治体はどこなんでしょうか?
1位はさいたま市、2位が静岡市、3位が福岡市です。
さいたま市は里親推進係が9人と、福岡市児相の1.5倍マンパワーを投下しています。静岡市は、NPO法人静岡市里親家庭センターを官民で立ち上げ、児相からNPOに委託。NPOが包括的に里親のリクルーティングからケアまで行なっています。
藤林所長がたどり着いた「フォスタリング機関」という考え
里親を社会的養護の中心に据えていく試行錯誤の中で、藤林所長は、里親ケアというのは、里親個人が行うケアも当然含まれるが、チームで行なっていくものであることを認識していったそうです。
チームで専門的に里親のリクルーティング、研修やアセスメント、そしてマッチングと委託後支援をしていく組織が必要だ、と感じられたそうです。
イギリスにモデルがありました。イギリスには里親のリクルーティングや研修、アセスメントやマッチングを専門的に行う「フォスタリング機関」が存在しました。
民間フォスタリング機関は、基本的には民間のNPOです。一方で、その機能は公的な児童相談所内にもインストールされています。
この両者が、併用されていて、お互い切磋琢磨している状態が、視察から見て取れたそうです。
イギリスから学び、福岡市児相は福岡市児相内でこれまでのように里親支援業務を行いながら、更にフォスタリング業務を民間NPOに委託し、直営と民営の2本立てでフォスタリング業務を強化しました。
民間NPOは、児童相談所ができない、ショッピングモールでブースを出す等のやり方で広報を行なってくれ、これまでリーチできない層に届き、新たな里親を発掘することができました。
政策化されるフォスタリング機関
藤林所長は成育医療センターの奥山先生と共に、「社会的養育ビジョン」をつくる審議会において、フォスタリング機関について提言。
そしてフォスタリング機関を2020年までに都道府県・政令指定都市で設置されることが社会的養育ビジョン内で謳われたのでした。
まとめ
非常に学びが多い講演でしたが、多くの児童相談所や児童養護施設が「里親委託率75%は非現実的だ」と連呼しているのに対し、福岡市児相では民間フォスタリング機関に委託を開始して2年目で成果が表れ始めており、29年度末には3歳未満のこどもの里親委託率は50%を見込んでいます。
そして里親委託率75%は、数年以内に達成できそうだ、というのが印象的でした。
その鍵は、児相内でフォスタリング機能を強化するか、あるいは民間フォスタリング機関に権限委譲、委託していくこと。もしくはその両方だ、と。
さらに僕たちフローレンスが行なっている特別養子縁組支援とも、里親はシームレスに繋がっているな、ということを再確認しました。
里親希望者層の中には、一時的な委託だけではなく、子どもと養子縁組をしたい、と思う層もいるわけで、両者は繋がっているわけです。(現在、里親業界と養子縁組業界は繋がっていませんが)
そんなわけで、我々も広く「家庭養護」という中で、里親や里親支援者の皆さんと繋がっていき、日本において家庭養護を広げていき、子どもたちを支えていきたい、と改めて思ったのでした。
編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2018年2月23日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。