日経新聞によると、石破茂さんも憲法9条2項維持を容認するようである。これで、9条1項、2項を維持して3項で「自衛隊」を明記する安倍総理の9条改憲案が前進する見込みとのことだ。しかし、これまでも主張してきたように、安倍総理の9条改憲案には問題が多い。
安倍総理の改憲目的
まず疑問なのは、その改憲目的である。
安倍総理は、新聞のインタビューや国会で、改憲理由として次のような趣旨を述べている。
「憲法学者の約2割しか自衛隊が合憲と言い切る人たちがいない。」
「あなたたち(自衛隊)は違憲だけれども、命をかけてこの任務に当たってくれということは、これはあり得ない」
「命を賭して任務を遂行している者の正当性を明文化することは、我が国の安全の根幹にかかわることであり、憲法改正の十分な理由になるもの」
つまり、安倍総理にとっては、自衛隊を違憲だと主張する憲法学者を沈黙させることが最大の改憲目的なのである。
私も、自衛隊の活動には心から敬意を持っているし、もちろんの合憲の存在だと考えている。しかし、安倍総理の9条改憲案では、そもそも、総理の意図する改憲目的が達成できるのか疑問である。
まず、安倍総理の9条改憲案では、「自衛権」の範囲は憲法上明示されないため、自衛隊の任務や権限は、下位法令や閣議決定等に委ねる形となる。そうであれば、仮に「自衛隊」の存在が憲法に位置づけられても、その自衛隊が行使する「自衛権」については、依然として憲法上の疑義が残り続ける。
たとえ話風に言うと、お父さんの属する自衛隊の存在についての違憲の疑いは払拭できても、お父さんの行っている任務や権限に対する違憲の疑いは消えない。これでは、自衛隊が違憲だと主張する憲法学者を沈黙させる目的は達成できない。
国民投票で否決されたら何が起こるのか
さらに、国民投票で否決された場合には、取り返しのつかない問題も発生する。
総理は私の質問に対して「国民投票でたとえ否決されても」自衛隊の合憲性は変わらないと述べた。
しかし、そうだろうか。話はそう簡単ではない。
もし、安倍総理の9条改憲案が国民投票に付された場合、単に「自衛隊」を憲法に書き込むことの是非を問うだけでは済まず、安保法制に規定された自衛隊の任務や権限の是非についても問うことにならざるを得ない。いわば、集団的自衛権を容認した2015年成立の安保法制や、その前年2014年7月の閣議決定で変更した解釈の合憲性の議論が必ず再燃する。
そして、国民投票で否決されれば、それは、集団的自衛権の行使を容認した閣議決定の解釈や、その解釈に立脚して認められた自衛隊の任務や権限、そして、自衛隊の存在そのものも否定されることになりかねない。北朝鮮情勢が緊迫する中にもかかわらず、自衛隊の憲法上の位置づけを極めて不安定なものにしてしまう。そのような事態は絶対に避けなくてはならない。
つまり、安倍総理の9条改憲案では、憲法学者を沈黙させるという目的を達成できないどころか、国民投票で否決された場合には、歴代内閣による解釈の積み重ねで認められてきた自衛隊の合憲性そのものに対する疑義をむしろ拡大させ、いわば、パンドラの箱を開けるような効果を生じさせる。
これが、私が「百害あって一利なし」の改憲案と断じる理由である。
「改憲の私物化」は避けるべき
憲法改正とは、国権の最高機関たる国会が発議し、主権の存する国民による国民投票によって決せられる“最高の権力作用”である。だからこそ、改憲には、確固たる目的が必要であり、間違っても、個人的な思いや心情に依拠した目的で改正を行ってはならない。
「改憲の私物化」は絶対に避けるべきなのである。
そのためにも、憲法改正の要否を抑制的に判断する「憲法改正の判断基準」が必要ではないだろうか。数の力に任せて権力濫用に陥りがちな安倍政権下での憲法改正議論にこそ、こうした権力抑制の判断基準が不可欠である。
改憲の「内容」とともに「目的」は極めて重要である。憲法改正の要否の判断準則のようなものを示していければと思う。
編集部より:この記事は、希望の党代表、衆議院議員・玉木雄一郎氏(香川2区)の公式ブログ 2018年2月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はたまき雄一郎ブログをご覧ください。