トランプから静かな離反:CPAC2018に見た保守派の内部分裂(特別寄稿)

渡瀬 裕哉

トランプ氏も登壇したCPACで何が起きているのか?((写真は2015年、Michael Vadon/flickr:編集部)

毎年2月~3月に米国ではCPAC(全米保守行動会議)と呼ばれる共和党保守派の人々が集う年次総会が開催されています。同イベントには全米から約5,000~10,000人程度の参加者が集い、保守派としての課題設定、方針共有、全国的な交流が行われる共和党保守派にとって重要な場となっています。

メディアもCNNなどのリベラル系のメディアからFOXなどの保守系メディア、そして海外メディアなども多く参列しており、この場でどのような議論が行われるのかを注目しています。昨年に引き続きトランプ大統領・ペンス副大統領が出席し、トランプ大統領が「北朝鮮に対する最大の制裁」に言及した場もCPAC壇上での演説となっています。

筆者は、このCPACに毎年通って、どのような参加団体が集って、何の議題が討論されて、そして参加者数はどの程度になっているかをウォッチしています。なぜなら、参加団体の傾向は現在の保守派内部における結束力を図る指標となり、討論される議題では参加者の関心事または主催団体側が盛り上げていきたい論点が明らかになり、参加者数で保守派内部の政治的な支持の盛り上がりが分かることになるからです。

筆者の本年のCPACに対する感想は、例年と比べて非常に残念なものだった、ということに尽きます。筆者がCPACに足を運ぶ機会を得たのは、米国の中道派の友人に保守派が一堂に会する面白いイベントがあるから是非参加しようと案内された際のことでした。しかし、筆者が米国の保守派の友人らに今年もCPACを見に来たというと多くの友人らが珍しく難色を示していました。筆者は何かおかしいと思ったものの、CPACの開催会場であるワシントンD.C近郊のナショナルハーバーにあるゲイロード・ナショナル・リゾートに足を運びました。そして、友人らが難色を示した理由を得心することになりました。

たしかに、会場では大統領・副大統領・閣僚及び連邦議員数人・全米ライフル協会・FOXなどの馴染みのメンバーが順番に登壇しており、保守派の観点から世相のテーマについてスピーチが行われていました。しかし、今年は連邦議員や州知事らの登壇者は減少し、保守派の知的側面を支える主要シンクタンクの面々は、展示会ブースを出して一部討議に参加しつつも、全体的に控えめな形の協力を行っている印象を受けました。

そして、彼らの代わりに壇上に立って堂々とスピーチを行っていたのは、海外からは国民戦線マリオン・ルペン(仏)、ナイジェル・ファラージ元イギリス独立党党首(英)、ブライドバートUKのような欧州のオルト・ライト勢力、そして米国からも物議を醸す発言を行うオルト・ライトまたは倫理的に問題があることが疑われている人物らでした。これらの人々は従来までは保守派のメインストリームであった中道右派の人々から顰蹙を買うために決してCPACでの登壇が奨励される人物ではありませんでした。

参加団体の様子も従来までとは大きく様変わりし、今年はオルト・ライト系の参加者が増加しているように感じました。ブライトバート・ニュース・ネットワークが出展者として参画したこと、スティーブ・バノン首席戦略官(当時)の登壇及び小児性愛の問題で登壇が取りやめになった同サイトIT編集担当者をミロ・イアノポロウス氏を巡る問題など、既に昨年から自由主義者たちに総スカンを食らっていたCPACですが、私見では昨年は今年ほどオルト・ライトの影響力はそれほど強くなったように思われました。

今年のイベント参加団体からオルト・ライト系団体と対立する自由主義者らのリバタリアン系団体の幾つかは姿を消すとともに、茶会系も政府予算拡大を進めるトランプ大統領を容認するCPACからは一定の距離を取るようになりました。筆者の目視ではCPAC自体年々参加者が減少しているように見えるとともに、筆者が知る中道右派がイベント全体の中核を成していた一昔前のCPACとは様相を異にするものに変質しているように感じました。

実際、登壇者の中でトランプ批判及びオルト・ライト批判を行った保守派のMona Charenという気骨ある女性論客がいました。(YouTube)

彼女はトランプの女性問題に関する姿勢を批判し、アラバマ州上院補選の共和党候補ロイ・ムーア(少女への性的虐待容疑有)の人選を糾弾、更に欧州で極右的傾向があったルペンの名を持つだけの若い政治家の親族がCPACで登壇したことを批判しました。彼女の発言は彼女の勇気を支持する拍手と糾弾する激しいブーイングの双方の反応を引き起こし、一部報道によると警備員数名に囲まれながら会場を後にすることになりました。

もちろんトランプ大統領が昨年実現した税制改革、規制改革、最高裁判事の任命など、その政策的成果は保守派が望むイシューを実現したものであり、その功績は否定できないものだと言えます。そして、CPAC会場に詰め掛けたトランプ支持者らはトランプ大統領の仕事ぶりを高く評価していることも間違いありません。

しかし、その足元では保守派内における中道右派の人々のトランプ大統領及び共和党保守派指導部からの静かな離反が進んでいることは確かです。中長期的な視点に立つと、共和党保守派内での分裂は今後更に深刻化していくことになるでしょう。差し当たり、今年の中間選挙において熱が冷めた側の従来の保守派の有権者らを、トランプ大統領及び保守派指導部が選挙に向けてどこまで組織的に動員できるのかに注目したいと思います。

トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体
渡瀬裕哉
祥伝社
2017-04-01

 

本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などは[email protected]までお願いします。