台湾総統へのお見舞いメッセージに関する答弁書を読み解く

渡瀬 裕哉

衆議院予算委員会第三分科会で回答する河野太郎外務大臣

前回の「崩壊した官邸ロジック 過去との整合性を失った蔡英文総統削除問題」、でも触れた質問主意書に内閣総理大臣安倍晋三名義で正式な回答がありました。詳細は下記の通り。

平成三十年二月十三日提出・質問第七五号

台湾の蔡英文総統へのお見舞いメッセージに関する質問主意書
提出者 源馬謙太郎

台湾の蔡英文総統へのお見舞いメッセージに関する質問主意書

安倍晋三首相は台湾東部で発生した地震に対して、台湾宛にお見舞いメッセージを出し、当初は首相官邸のウェブサイトに「蔡英文総統閣下」の宛名が記載されていたが、二月十三日現在、その宛名は消えている。中国外務省の耿爽副報道局長は、安倍首相のお見舞いメッセージにおいて「総統」の肩書を使用したことに対し、日本側に厳正な申し入れを行ったことを明らかにしている。これらを踏まえ、事実確認をしたく、以下質問をする。

一 掲載直後に記載されていた「蔡英文総統閣下」の宛名はいつ削除されたのか。また、削除された理由は何か。

二 その削除の判断は誰によってされたものなのか。

三 他国から削除の要請、または他国(特に中国の申し入れ)に配慮する意味合いはあったのか。

四 「蔡英文総統閣下」の宛名は元に戻す予定はあるか。
右質問する。

という質問主意書への内閣の回答が、

内閣衆質一九六第七五号平成三十年二月二十三日 内閣総理大臣安倍晋三
衆議院議長大島理森 殿

衆議院議員源馬謙太郎君提出   台湾の蔡英文総統へのお見舞いメッセージに関する質問に対し 、 別紙答弁書を送付する 。

衆議院議員源馬謙太郎君提出台湾の蔡英文総統へのお見舞いメッセージに関する質問に対する答弁書

一から四までについて現在首相ホームページに掲載している「台湾東部で発生した地震を受けた安倍内閣総理大臣によるお見舞いメッセージ」については、政府として、被災された台湾の方々に対してより広くお見舞いのメッセージを伝達することが適当と判断し、平成三十年二月八日に首相官邸ホームページに掲載したものであり、他国からの申入れを受けて掲載したという事実はない

というものでした。要は

源馬謙太郎議員の質問主意書に対し、

・「一の削除の時期・有無」「四の蔡英文総統閣下の宛名に戻す意向」については曖昧な回答(ただし修正を実質的に認めた)

・「二の誰の判断によって削除されたのか」については一切回答無し。(形式上の責任は内閣総理大臣安倍晋三ということになる。)

・「四の他国からの削除要請の有無、並びに他国への配慮」については、中国からの抗議の前なので申し入れを受けて掲載したものではない

ということになります。

質問主意書の回答の通りであれば、「蔡英文総統閣下」の削除は、我が国が首相のメッセージとして首相官邸HPに一度掲載した内容を「具体的に誰の判断かは不明であるが、内閣総理大臣安倍晋三が責任者として、他国の申し入れを受けたものではなく、自発的に「蔡英文総統閣下」のくだりを削除したことになる」

わけです。これは今回に限っては特別な判断をするだけの「忖度」を行ったということになります。

ちなみに、本件は国会でも質疑が行われました。

源馬議員の国会質問によると、安倍政権発足以来、2013年から累計で44件のお見舞いメッセージ以外1件しか宛名がないものしかなく、1件の例外はテロで亡くなった個人宛のみ(文中に氏名表記有)とのことです。そして、外務省参事官の質疑への回答によると、中国からの抗議があったことは認めたものの、中国への日本政府の回答は外交上のやり取りなので回答できない、というものでした。(我が国の外交は相手国政府が公衆の面前で堂々と抗議してきた内容に対して、こちらの回答内容を国民に隠さすという惰弱さに呆れます。)

重要なことは、

台湾の地震に関する安倍総理大臣発馬英九総統宛て,岸田外務大臣発林外交部長宛てお見舞いメッセージ(2016年2月)

ということで僅か2年前までには同じ安倍首相の内閣で「総統」宛てのメッセージが掲載されています。

そして、過去のお見舞いメッセージは原則として国家元首宛てとなっており、今回、政府は「新しい基準」によって、メッセージの宛先が「国家元首」になる場合と「被災された方々」になる場合に分けて判断したことになります。

また、当たり前ですが、今回の事案について「内閣総理大臣安倍晋三」、つまり内閣として回答していることから、この削除の判断は安倍内閣としての台湾に関する判断が前回2016年の場合と2018年の場合とでは異なるものであることを意味しています。

外交関連の閣僚人事について、2年前から岸田文雄外務大臣が河野太郎大臣に代わっているため、本件は河野外務大臣の判断が働いたものと推量することができます。河野大臣は自らの判断が影響を与えたものではないとするならご自身で説明するべきでしょう。

そこで、日本政府が再回答すべきことは下記の3点になります。

(1)お見舞いメッセージの回答が「国家元首」または「被災された方々」になる客観的な基準とは何か。

(2)具体的な回答が無かった削除の判断は、「内閣総理大臣による判断か」、「河野太郎大臣」によるものか、それとも内閣の全体の判断か。

について国会の場または質問主意書で再質問することが望まれます。

ただし、政府は上記のようにまとめて回答することで質問に回答せずに誤魔化し続ける不誠実な対応を行いました。そのため、個別の質問に分けた質問主意書の形にして曖昧な答弁が許されない形で行うべきです。個別の質問内容について具体的に回答をしないということは、民主主義への冒涜であり、内閣は真摯に本件について回答することが望まれます。

数年前、筆者は安倍政権の「米国連邦議会上下両院合同会議における安倍内閣総理大臣演説」のように自国の歴史と威厳を貶めた演説を見て日本はどれほど属国なのかと耳を疑いました。米国人は自らの占領改革が成功した事例として、日本の民主主義や経済が全て米国のおかげで発展したかのような演説にスタンディングオベーションで応えたかもしれませんが、筆者は安倍首相の国民として恥ずべき演説は一生忘れないと思います。

国内では内弁慶で外国からの干渉に強い政権を演出しながら、同時に敗戦国の自発的奴隷根性丸出しの忖度を諸外国にさらし、どうやって我が国の誇りを守っていくのか。そして、国民の代表たる国会議員に対して、今回の答弁書のように平然と白々しい回答できる腐りきった根性は非常に問題です。


編集部より:この記事は、The Urban Folks 2018年3月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。