クドローNEC委員長就任で、予想される経済政策とは?

「自由市場の資本主義こそ、繁栄へ繋がる最善の道だ!」とは、3月14日に国家経済会議(NEC)委員長に指名されたラリー・クドロー氏の決め台詞である。同氏は経済・金融TV局CNBCで看板番組を持つ保守派の論客で、小さな政府を目指し、キャピタルゲイン税や相続税に反対し、従業員の年金は自己責任であるべきと謳ってきた人物だ。

若かりし頃、民主党陣営で未来の大統領となるクリントン氏と共に左派のジョセフ・ダフィー上院議員(当時)の下で選挙対策に走り回っていたとは到底想像できない。それもそのはず、クドロー氏は共和党に鞍替えし、レーガン政権で行政管理予算局(OMB)の幹部を務めた。その後はベア・スターンズの首席エコノミストなどを経験したが、薬物依存の影響でクライアントとのアポをすっぽかした1994年にウォール街を去ることになる。

歯に衣着せぬ物言いで評判のクドロー氏だが、上記の経歴の通り長いものに巻かれる風見鶏のごとき一面も備える。クドロー氏は3月3日付けのコラムで関税を“税金”と見なし、従来通り反対の立場を表明した。鉄鋼・アルミの関税賦課で14万人の雇用を救う可能性があるものの、製造業関連の500万件もの職が喪失の危機に直面するとも警告したものだ。さらに、ニクソン政権が10%の輸入課徴金を掛けた当時はスタグフレーションを招いたと主張。ブッシュ政権(子)が2002年3月~03年12月に導入した鉄鋼セーフガードも、成功したわけではないとの考えを強調していた。

ブライトバートは、ポンペオ国務長官指名と合わせ諸手を挙げて歓迎。

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出所:Breitbart

しかしコーンNEC前委員長の辞任が明らかになった6日、関税そのものを否定してなかった点は懸念材料と言える。クドロー氏は貿易相手国全体への関税賦課ではなく、一部の国で過剰生産される製品など「的を絞った関税」の重要性を訴えた。ライアン下院議長などと呼応するほか、鉄鋼・アルミ関税賦課の適用対象限定を検討するトランプ政権にとっても妥協できる選択肢と言えよう。

何より注目は、政権と足並みをそろえ中国には厳しい姿勢を採り、コーン氏の辞任報道後に「地図の先を見なければならない…中国だ。窓を絞った関税は交渉を促すと考え、私なら中国に狙いを定めただろう。カナダではない」との発言だ。政権内には、自身と同様の考えを持つ関係者が存在すると明らかにしていた。対中強硬派のナバロ通商製造業政策局長と対局にあるとは、断言し難い。

トランプ大統領と20年越しの関係であり、減税と規制緩和に助言してきたとも自負するクドロー氏がNEC委員長に就任して最初に取り組む政策に、減税が挙げられる。同氏が主張してきたように、キャピタルゲイン課税は物価上昇分を差し引いて算出する仕組みへの移行を目指すだろう。またトランプ氏やブレイディ下院歳入委員会委員長が言及した、税制改革法案後の“減税第2弾”でも、司令塔を務めるに違いない。ただ“減税第2弾”は2025年までの所得税減税措置の恒久化などが含まれる見通しで、財政赤字拡大リスクを踏まえれば実現の見込みは小さい。クドロー氏が米国を「繁栄に繋がる最善の道」へ導くには、共和党上院など障害が立ちはだかる。

(カバー写真:Gage Skidmore/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年3月19日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。