2月28日に財務省で開催された国の債務管理の在り方に関する懇談会の議事要旨に次のような発言が記述されていた。
「個人向け国債の売り上げが好調なのは、現在、銀行にとって預金がコストとなっており、預金から個人国債に振り替える動きが出ていることによるもの。金利水準が戻れば、個人国債の売り上げも元に戻るのではないか。」
銀行にとって預金がコストとなっているというのは、日銀のマイナス金利政策により、残存が9年近くまでの国債利回りがマイナスとなっているためである。預金者にはマイナス金利を課すことは控えられているなか、国債の利回りは残存9年近くまでマイナスとなっており、資金運用がかなり難しくなっている。
個人の資金を預金ではなく個人向け国債の購入に振り向ければ、販売する金融機関には手数料が支払われる。昨年4月発行分からこの個人向け国債の手数料が引き下げられ、固定3年で額面100円あたり20銭、固定5年で額面100円あたり30銭、変動10年で額面100円あたり40銭となった。これは購入者負担ではなく、販売額に応じて金融機関に財務省が支払う手数料である。手数料が引き下げられても10年変動では40銭もある(50銭からの引き下げ)。
この手数料の引き下げもあり、販売する金融機関は手数料引き下げ前の昨年3月に個人向け国債のキャンペーンを張り、販売額は全体で9315億円となった、翌4月発行分は2030億円に落ち込んだが、7月には3000億円台を回復し、2018年に入ってからは毎月3000億円を超す販売が続いている。これは預金から個人向け国債に振り向ける動きもないとはいえないが、個人による個人向け国債へのニーズが強いことも要因と思われる。
個人向け国債には0.05%という最低保証利回りがついている。日銀のマイナス金利政策などの影響もあり、この0.05%がいつの間にか銀行などの預金金利を上回ったことで、利回りとして魅力化したのである。
日銀は現在、長短金利操作付き量的・質的金融緩和策という政策を行っている。これは短期の金利をマイナスに誘導するとともに、長期金利もゼロ%近辺に誘導するというもので、これまでのオペの動向などから長期金利は0.11%以下に抑えようとするものである。
日銀の黒田総裁の続投も決まり、日銀は現在の金融緩和政策を物価目標達成まで進めるつもりのようである。日銀の政策に変化が出ない限りは、わずかな金利ではあるものの、個人向け国債の優位性は維持され、販売する金融機関にとっても手数料が得られることにより、個人向け国債の販売好調は継続すると思われる。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年3月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。