プログラミング教育の目的は何か

山田 肇

2020年からの『小学校学習指導要領』は子供たちの情報活用能力育成を強調し、そのために次の学習活動を計画的に実施するように求めている。

  • 児童がコンピュータで文字を入力するなどの学習の基盤として必要となる情報手段の基本的な操作を習得するための学習活動
  • 児童がプログラミングを体験しながら、コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動

2項には「児童がプログラミングを体験しながら」とあり、これが「プログラミング教育必修化」として報道された。そして今、どのプログラミング言語を教えるのが適切か、一部関係者の間で議論が起きている。

このところシンガポール会合の様子をアゴラにアップしてきたが、そこではコンピュータサイエンスの教育がなぜ必要なのかも議論された。少数は、職業人としてプログラマーを大量に育成して国家経済を豊かにするという理由を挙げた。多数派は情報社会を生きていくうえでコンピュータサイエンスの基礎知識はどのような子供にも不可欠であるから、と主張した。

僕は多数派の意見に沿って次のように説明した。自動運転車に象徴される新しい技術製品・サービスを、子供たちは「ドラえもんのひみつ道具」のようにとらえる傾向がある。そんな子供は、自動運転車が急停止すると「ひみつ道具が突然壊れた」とパニックに落ちるかもしれない。子供たちは、それら製品・サービスは人間が創造したもので、人間が命令する通りに動いていると理解する必要がある。

上述の学習指導要領には「コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付ける」とあるが、こちらに重点を置けばどのプログラミング言語が適切かは付随的な検討事項になる。シンガポール会合での多数派の考え方とも一致する。小学校低学年の段階なら、Code.org等が提案するように、どのように素材を重ねていけばおいしいチーズバーガーができるかを考えさせることも、論理的思考力の育成に役立つかもしれない。

シンガポール会合では多くの参加者が、能動的に社会に働きかける大人になって欲しい、単なる消費者ではなく創造する側に立ってほしいと強調した。これはIT技術者を育てたいという意味ではない。以前にレポートしたように、農業分野で情報通信技術の活用が進みつつあり、他の多くの産業も同様である。将来どのような産業に従事しても、産業の創造的発展に貢献できるように子供たちを育てていくためには、論理的思考力の育成が重要であるという意味である。

シンガポール会合の記事は次にあります。
多国の教員と一緒に作業をした
教育での情報通信の活用と教員の壁
各国教員が進める教育でのICT活用

山田 肇
ドラえもん社会ワールド 情報に強くなろう』監修