表現の自由やデモの権利が奪われる?都の迷惑防止条例改正について

音喜多 駿

こんばんは、都議会議員(北区選出)のおときた駿です。

本日、警察消防委員会にて「迷惑防止条例改正案」が共産党を除く全会派の賛成多数で議決されました。

私の会派・かがやけTokyoは警察消防委員会に議席はありませんが、続く本会議では「しっかりと運用を注視する」ことを付言した上で、賛成をするつもりです。

警視庁の迷惑防止条例改正案が「東京都版の共謀罪」と物議 解釈次第で報道の自由も制限可能か
警視庁の条例改正案、専門家が「憲法違反」と批判する理由

ここ数日の報道を受けて、この条例改正案について多くのお問い合わせをいただいております。

少し遅くなりましたが、本日は本条例案について、以下に私の所見をまとめておくものです。

改正案に慎重・反対の立場を取る方々の主張をまとめると、大きく以下の3点になります。

現行の法律・条例でも対応可能なのに、この改正案は必要ない!
●条例が濫用され、表現の自由やデモの権利が奪われる恐れがある!
●東京都からこの恐ろしい条例案が可決されれば、全国にも悪影響が出る!

これに対して、私が本日伝えたい要点は以下の3点です。

◯今回の改正で、これまでは対処できなかった深刻な事例に初めて対応が可能になる
条例の濫用でデモ等を規制したいのであれば、そもそも現行の改正前条例でもできる(でもやっていない)
◯他の自治体に目を向けると、16道府県ですでに同様の条例案が施行されている(けど問題は起きていない)

順を追って解説していきますね。

これまで対処できなかった事案に対応するための改正

今回の迷惑防止条例改正案は、スマートフォンやSNSの普及などにより多様化したつきまとい行為等の規制を強化することを目的に、「悪意の感情を持って」

・みだりにうろつくこと
・監視していると告げること
・電子メール(SNS)を送信すること
・名誉を害する事項を告げること
・性的羞恥心を害する事項を告げること

を新たに規制対象とするものです。

まず大前提として重要なのは、ストーカーなどの「つきまとい」行為を防ぐ文脈で出てきたものが本改正案であるということです。

以上の行為は、ストーカー規制法によって「好意の感情で」行なわれる場合はすでに取締の対象となっています。

しかしながらこれまで、「悪意の感情で」行われる場合は警察機関は効果的な対応をすることができませんでした。

具体的に言うと、危険性を感じる相手から

「好き」「好き」「好き」
「会いたい」
「いますぐ会いに行きたい」
「愛している」
「結婚したい」

などのメール・SNSが連続でくれば、警察が相手に強制力をもって対処することができますが、

「キモい」「キモい」「キモい」
「虫唾が走る」
「人でなし」
「みんな君のことを嫌っている」
「顔も見たくない」
(あまり良い例示が思い浮かびませんが…)

などのメール・SNSを連続で送ってくる相手がいたとしても、「好意」の感情ではないため今の警視庁はせいぜい「警告」するくらいしかできません

「殺す」などの具体的な文言があれば強迫行為で対処できるものの、そうでない場合はどれだけ警察に相談しても、「具体的な被害が生じてからでないと…」と門前払いされているのが今の実情です。

これは頻繁に耳にする話で、「あきらかに悪意をもって迷惑行為をされているのに、警察が対応してくれない。危機感を感じており非常に怖い」という相談は、少なからず私の元にも寄せられてきます。

明白な「悪意」をもって対象者の周囲をみだりにうろついたり、「常にお前を見守っているぞ」と告げてくる相手を放置していれば、重大事件に発展する恐れがあることは火を見るよりも明らかです。

「好意」の感情でなければ対応ができなかった、こうした事例に対して効果的な対処を行うための条例改正が、今回の迷惑防止条例改正案であるわけです。

繰り返しになりますが、現行の条例案ではメール・SNSなどを通じて威圧的な言葉を連続で浴びせてくるような事例であっても、なんら効果的な対処をすることはできません。

重大事件を未然に防ぎ、命を守るための改正案なのです。

濫用するつもりなら、今の条例内容でとっくにデモは規制されている

では一部の方々は強く懸念されているように、この改正案の濫用によって「デモや取材活動などの自由が奪われる」ことがあり得るのでしょうか?

それこそが、この改正案の真の目的なのでしょうか??

もちろん運用を注視していきますが、その可能性は極めて低いと思います。

改正前(現行)の迷惑防止条例でも、悪意をもった「つきまとい・待ち伏せ・立ちふさがり・押し掛け」をする行為は規制対象です。

慎重派・反対派の方が言うような目的があるのならば、改正案で追加される「みだりにうろつく」よりも、「立ちふさがり」や「押し掛け」の方がデモを規制できそうです。

「待ち伏せ」で取材規制もできるでしょう。

でも、当然のことながらそのような運用は一切なされていません。

今回の改正案が「デモつぶし」「表現の自由つぶし」であるならば、現行の条例案を駆使して行えば良いだけの話で、わざわざ火を焚き付けて改正案を提示する意味はまったくありません

改正案を出したのは(繰り返しになりますが)、「現行では対応できない迷惑行為を規制し、重大事件を防ぐ」ことが目的であるのは、ここからも明らかではないでしょうか。

また「名誉を害する事項を告げること」によって、デモや報道で政治家を批判することが取り締まられるのではないか?との懸念も示されています。

しかし上記の図の中でも例示されているように、これはあくまでストーカー的な特定個人への(主に1対1の)つきまとい行為が想定されたものです。

デモや報道で政治家を公然と批判することは、既存の名誉毀損で訴えられることはあっても、今回の条例での取締対象になることは原則として考えられません。

他の16道府県でも類似条例がすでにあり、条例の濫用は行なわれていない

最後に、他の道府県の状況に目を向けておきたいと思います。

すでに47都道府県のうち、大阪府や北海道、埼玉県など16の道府県がすでに同等の「迷惑防止条例」を制定しています。

加えて、大阪府・栃木県・岡山県以外の13道県に至っては、「悪意」などの感情の制限すらありません。

濫用しようとすれば東京都の条例以上に容易なわけですが、その条例でデモや表現の自由が侵されたという話は寡聞にして聞きません

むしろ東京都の条例は先行事例に比して、「悪意」という感情に限定して慎重な運用を前提としている点が評価できると言えます。

まあそもそも、「好意はわかりやすいけど、『悪意』は警察が恣意的に判断できてしまう!」という理屈も、個人的には少々我田引水がすぎるのではないかと思いますが…。

好意だって容易にわかるなら、恋愛で勘違いしてあんなに玉砕しませんよね?!(ああ青春時代)

以上、何度も繰り返しになり恐縮ですが、これはあくまで現行では対応できない「悪意によるつきまとい行為」に対応するための条例改正案で、デモや表現の自由を狙い撃つものではありません

逆にこの改正案が成立しなければ、悪意を伴う威圧的行為によって現在進行形で危機にさらされている人々をそのまま放置することになりかねません

私はそれを非常に危惧しています。

「(悪意によるつきまとい行為が)重大事例につながったことは証明できない」と言いながら、人の命が失われてからでは遅いのです。

最終的に、中道左派(?)である民主・立憲民主党会派も改正案の賛成を表明し、反対したのは共産党のみに留まりました。

反政権・反権力という政治闘争のために、改正案の危険性が強調されすぎてはいないか?

勿論われわれも今後の運用には厳しく目を光らせていきますが、皆さまにもいま一度、冷静な目で本改正案を考えてみていただければ幸いです。

それでは、また明日。


編集部より:この記事は東京都議会議員、おときた駿氏(北区選出、かがやけ Tokyo)のブログ2018年3月22日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はおときた駿ブログをご覧ください。