国際社会経済研究所が主催するシンポジウム「AI・IoT活用とヘルスケア分野のイノベーション」が3月26日に開催された。ヘルスケア分野のデジタル化が健康・医療・介護分野のイノベーションを大きく後押しするということが語られたが、パネル討論では多くのパネリストが「データ」の在り方について言及した。
第一は、健康・医療・介護分野で利用可能なデータを増やす必要性である。医療記録がデジタル化されれば、AI(人工知能)などを使って解析することで新知見が得られ、医療が発展していく。しかし医療施設における電子カルテ導入率は3割に過ぎず、そもそも利用可能なデータの量が少ない。一方で、電子カルテを全医療施設に導入するには数兆円の経費が必要なので、国費投入を安易に決断するのはむずかしい。地域を限って全医療施設に電子カルテを導入し、その価値を評価し費用対効果を明らかにする実証実験についても言及があった。
第二は、健康・医療・介護分野で利用可能なデータの種別を増やす必要性である。会社員であれば年に1回健康診断を受ける。その記録は今ではデジタルで保存されているが、転職の際に持ち出すことはむずかしい。このように、健康・医療・介護分野ではデータが保険者・学校など組織ごとに分断されている。医療は医療、介護は介護としてデータを管理するという分断もある。これら二種類の分断を解き、一貫してデータを取り扱えるようにしなければならない。
そして第三に、健康・医療・介護分野で利用可能なデータで利用するデータの質を向上させる必要性である。医療分野では用語やデータ形式の標準化が進みつつあるが、介護は遅れている。これでは、地域横断的にデータを比較したり、医療と介護を連結して分析したりできない。次世代医療基盤法が制定され、医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報の取り扱い方が定まった。これを健康・医療・介護の全分野に拡張するとともに、用語やデータ形式の標準化に政府がリーダシップを発揮する必要性が強調された。
AIやIoTに代表される情報通信技術は健康・医療・介護分野のイノベーションを加速させる。しかし、ここに書いたようなデータに関する課題が解決されなければ絵にかいた餅だ。政府を始め、関係者は協力して課題を解決するように期待したい。
山田 肇
『ドラえもん社会ワールド 情報に強くなろう』監修