国会における認知症対策の議論を活性化すべく今年2月に立ち上げた「認知症国会勉強会」ですが、先日開催した第2回勉強会には、認知症当事者の山本朋史さんにご参加いただき、意見交換を行いました。
本稿では、山本さんが語ってくれた体験談をご紹介させていただきます。
まさか自分が・・・・・・
山本さんは週刊朝日の記者として働いていましたが、激しい物忘れや取材のダブルブッキングなどが続き、「これはおかしい」と感じて病院の物忘れ外来に駆け込み、61歳の時に軽度認知障害の診断を受けました。
原稿執筆という頭を使う仕事をしていたので、まさか自分が認知症になるとは思いもよらなかったそうで、
「90歳以上の8~9割の人が認知症になると言われています。まさに誰もがなり得る病気が認知症なのです」
と語ってくれました。
解雇のピンチ!?
診断を受けた後、山本さんは東京の自宅から茨城県の病院に週2回通院することになりました。
診察時間に茨城県までの往復を加えると1日がかりです。
「このままでは職場に迷惑をかけてしまうのではないか」
「記者の仕事は続けたいけれど、認めてもらえるかどうか・・・・・・」
山本さんはそんな不安を抱きながら上司に相談したそうです。
しかし、上司の返事は意外にも、
「そういう事情であれば、認知症当事者としての体験談をルポにして連載したらどうか」
というものでした。
「本当にありがたい!」
上司の言葉は山本さんの人生を照らす希望の一言になりました。
トレーニングで症状が改善!
認知症にもいろいろな種類がありますが、山本さんの場合は「レビー小体型」で、感覚神経が鈍くなるのがその症状の1つです。
実際、トレーニングを始める前には、ストレッチなどで目いっぱい筋肉を伸ばしても痛みを全く感じなかったそうです。
しかし、「筋トレによって脳に刺激を与えると脳細胞と感覚神経をつなげることができる」とのトレーナーの方の言葉通り、トレーニングを継続するうちに痛みを感じられるようになりました。
筋トレに加え、芸術療法や音楽療法、デュアルタスク、認知ゲーム、料理などいろいろなトレーニングを4年間継続していますが、山本さんは感覚神経以外にも大きな変化を感じています。
診断を受けてから毎日、ミスの回数をカウントしていますが、3年半前には1か月に65回ミスしていたものが、今では5~10回程度に減りました。
ご自身以外にも、トレーニングで症状が改善し、仕事に復帰することができた人たちを山本さんは何人も知っています。
なぜ発見が遅れるのか?
山本さんは、体調の変化に気付いた時、「家族に迷惑をかけたくないし、記者の仕事を長く続けたい」との思いから、すぐに病院に駆け込みました。
しかし一般的には、認知症と診断されるのが怖くて病院に行くのが遅れてしまう人が多いようです。
また、診断された後、自身が認知症であることを会社に伝えていない人も多いようで、実際、山本さんが通っているデイサービスには現役で仕事をしている人が何人もいますが、会社に認知症のことを伝えている人は1人もいないそうです。
認知症当事者に接する時に
一般的に、認知症になると何もできなくなってしまう、というイメージがあります。
しかし、実際の体調には波があり、山本さんも調子の良い日には健常者と全く同じように生活し、何でも自分自身でやることができます。
このため、山本さんは、
「何でもかんでもサポートするのは本人の自立を損なうことになりかねない」
と指摘します。
昨年、65歳で仕事を辞めた山本さんですが、現在は日々の生活の中で筋トレ、絵画、料理、認知ゲームなど様々なトレーニングを取り入れた「いい習慣」を継続するよう心掛けているそうです。
中には長時間実践することが推奨されているトレーニングもありますが、続けられることを重視し、無理はしないようにしているとのこと。
こうした「いい習慣」によって生活にメリハリがつき、生きがいにもつながっている、と前向きに語ってくれました。
今回、山本さんが語ってくれたことの中で、政策的に重要なポイントは、「認知症に対する正しい理解を普及すること」の重要性です。
・認知症はトレーニングによって予防や進行の抑制をすることができる
・認知症になってからも充実した生活を送ることはできる
こういったことを多くの方に知ってもらうことで、早期発見にもつなげていくことができます。
これから、今まで以上に普及啓発に取り組んでいきたいと思います。
(この勉強会に事務局として関わってくれている日本医療政策機構の栗田さんに感謝申し上げます。)
編集部より:この記事は、衆議院議員、鈴木隼人氏(自由民主党、東京10区)のブログ 2018年4月3日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は鈴木氏のblogをご覧ください。