金融市場の動きは波にも例えられる。漣が長期にわたり続くことがあり、それが突然変化して大波が襲い、しばし荒れ狂う波が押し寄せる。これはボラティリティという言葉でも表現される。ボラティリティとは金融資産の価格の変動の大きさを示すパラメータである。これが小さいと値動きが小さいことを示し、大きくなると荒れた値動きとなる。
4月4日の米国株式市場はまさにボラティリティの大きな相場展開となった。中国は4日に米国からの輸入品約500億ドル相当に25%の追加関税を課す計画を発表した。対象には大豆や自動車、化学品、航空機などが含まれた。米国のトランプ政権が打ち出した関税措置への対抗策といえる。
これが発表されたのは、米国株式市場が開く前であったが、24時間取引されているグローベックス(CMEグループが運営する24時間稼働の電子取引システム)で、米株先物が急落していた。また、商品取引で大豆が急落するなどしていたことで、市場が動揺を示していた。
このため4日に米国株式市場が開始されると売りが殺到し、特に中国に関係する企業、たとえば中国の売上比率が高い航空機のボーイングなどが大きく売られ、ダウ平均は寄り付き直後に500ドル超下げる場面があった。
これに驚いたのが米国政府であったようである。トランプ大統領は選挙公約もあり、異例の輸入制限措置を発動したものの、貿易戦争を起こす気はなく、水面下では中国と交渉していたとされている。しかし、中国の関税措置への対抗策をみて、とくに米国内の影響も大きい大豆なども含まれていたことに、市場は動揺を示した。
このため米政府高官は中国を批判しつつも、交渉を通じて制裁発動を避ける可能性に言及した。国家経済会議(NEC)のクドロー委員長はテレビで「市場は過剰反応しないでほしい」と呼びかけ、今後数カ月の交渉を通じて最終的に関税発動を見送る可能性は「ある」とまで指摘した(日経新聞電子版)。
ロス商務長官もテレビのインタビューで「米市場がこんなに驚くこと自体が驚きだ」と語ったようだが、米政権と市場との対話が進んでいなかったことのほうが驚きであったように思われる。
4日の米国株式市場はこれら政府関係者による発言を受けて、急速に買い戻されてダウ平均は230ドル高で引けた。5日も続伸となっている。
なぜこれほどまでに値動きが荒くなったのか。これには相場の地合が2月以降に変化し、市場参加者がかなり神経質となっており、その結果として日々のボラティリティが大きくなっていたことがひとつの要因となっている。また、アルゴと呼ばれるシステム系の売買が更に値動きを大きくしている側面もある。
いずれにしてもこのような相場変動を抑えるためには、今回の関税の問題では米経済に与える影響等に配慮している姿勢をはっきり示し、透明度を高める必要もあろう。しかし、トランプ大統領によるつぶやきが市場を混乱させる要因ともなっていることで、市場の疑心暗鬼は当面続くことも予想される。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年4月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。