「太りやすい」「痛風になる」。飲めば飲むことに「後ろめたさ」を感じてしまうビールの魔力。そんな印象を払拭する衝撃の書籍が上梓された。その名も『ビール! ビール! ビール! 』(幻冬舎)。シンプルなタイトルにはビールを最大限愉しむ飲み方と、ビールに関する思いが込められていた。
著者は、医療法人社団大和会「慶和病院」理事長・院長。医学博士。大川章裕医師(専門は脊椎外科)。海外文献にも豊富な知見をもち、ビールと女性ホルモンに関する研究に注目。予防医学や健康に貢献するとして情報公開を積極的に進めている。また、自宅には常時100本以上の世界各国のビールを揃える大の「ビール党」でもある。
ビールの変遷を辿ってみればわかる
ビールが健康に悪いと勘違いされている理由として「飲むと太りそう」「痛風になる」というイメージが挙げられる。この機会に正しい情報を入手してもらいたいものである。
「ビールには、はるか古代から薬として用いられてきたという歴史があります。ビールの起源に関しては諸説あるのですが、紀元前4000年よりも前まで遡るともいわれます。メソポタミアで人類が農耕生活を始めた頃、放置してあった麦の粥に酵母が偶然入り込み、自然に発酵したのが起源ではないかと考えられています。」(大川医師)
「最古の記録としては、紀元前4000~3000年頃にメソポタミアのシュメール人が残したとされる『モニュマン・ブルー』の粘土板に、当時のビールの作り方が描かれています。この地方は、気温が高いために水が腐りやすく、生水が飲料に適さなかったこともあって、ビールは安全で栄養価の高い飲み物として重宝されていたようです。」(同)
ビール酒造組合のHPによれば、ビールが、アッカド・アッシリア・バビロニアなどの古い文明遺跡から、製造・飲用の事実があったとされている。また、『ハムラビ法典』にもビールにかかわる法律が制定されていた。いずれにしても、古代人の生活においてビールが神の恵みである神聖な飲み物であったことに間違いなさそうである。
「肥沃なナイル川で収穫された大麦を原料に造られ、ピラミッドの壁画や、古代エジプトで死者とともに埋葬された『死者の書』などにも、大麦の栽培やビールの醸造の描写が数多く残っています。当時、ビールは『液体のパン』ともいわれており、胃薬や流行病の予防薬、はては手足の打撲の湿布薬にまで使われていたようです。」(大川医師)
「また、女性が若さを維持するためビールで洗顔を行っていたとの説もあり、もしかするとクレオパトラも愛用していたかもしれません。そんなことを考えながらビールを飲むとロマンが膨らんできます。」(同)
ビールは健康効果をうたった飲み物
中世になるとヨーロッパ各地の修道院で、グルートと呼ばれるハーブを使ったビールが造られるようになる。これは、いま流行の「ボタニカル・ビール」と同じである。ホップのかわりにグルートを調合し造られていたのである。
「修道士たちは断食の期間の栄養補給に使い、薬として利用し、来客をもてなし売って収入を得るために醸造していました。その後、ドイツのバイエルン地方で初めてホップが使われるようになりました。アルコール濃度の低いビールは腐敗しやすいために、抗菌作用の強いホップが用いられたのではないかと考えられています。」(大川医師)
「ホップを使ったビールが各地に広まっていき、大航海時代には水に代わる飲料水として船に積まれ、脚気の予防などにも役立ったそうです。日本にビールが伝わってきたのは、18世紀後半です。鎖国状態にあった当時、西洋文化との唯一の窓口だった長崎の出島にオランダからもたらされ、蘭学者たちがビールの試作や試飲を行いました。」(同)
1872年には、大阪商人の渋谷庄三郎が堂島に醸造所を設け、日本人で初めて本格的にビールの製造・販売を開始した。その後、次々にビール会社が誕生し、広まっていく。ただ、当時はビールがまだまだ高価だったこともあり、健康効果をうたって薬局で販売されたという記録も残っている。やはり薬の色彩が強かったようだ。
本書は医師が、ビールにまつわる誤解を解消するとともに、国内外の論文やデータを分析してたどり着いた、ベストなビールとの付き合い方とはなにかを解説した本になる。これからの暑い季節を前に一杯いかがだろうか?「ビール!ビール!ビール!」。
尾藤克之
コラムニスト
代議士秘書、コンサルティング会社、IT系上場企業等の役員を経て現職。著書はビジネス書、実用書を中心に10冊。『あなたの文章が劇的に変わる5つの方法』(三笠書房)が発売後、1週間で重版。現在好評発売中。
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