企業同士の株の持ち合いが次第に解消されてきている。
コーポレートガバナンスという観点からは極めて好ましいことだ。
企業経営陣は、株主の意向に沿った形で企業運営をしなければならなくなる。簡単に言ってしまえば、企業価値を高める努力を強いられるということだ。
ある企業が現金を保有しているとしよう。
この現金の使い途については、2つの選択肢がある。
企業自体が新たな投資に振り向けることと、特別配当等で株主に還元することだ。そのまま保有し続けるという選択肢もあるにはあるが…使途がないのであれば株主に還元するのが筋だ。
企業自体が投資を行う場合、株主は現金を還元されないので、株主自身が金融市場等に投資する機会を失う。
その機会を失って、株主があきらめた収益率を資本の機会費用という。この資本の機会費用を上回る投資を企業が行えば企業価値は向上し、株価は上昇する。
ところが、資本の機会費用を下回った場合は、企業価値が低下して株価は下落する。
このように、企業経営陣にとって、「投資をするか還元するか?」「投資をする場合、どこに投資をするか?」は極めて重要な問題となる。
企業として投資をしようとする場合、経営陣は「この投資が個々の株主が投資した場合より高いリターンを得られるか否か」を自問した上で、決断しなければならない。
「個々の株主に現金を返しても利息の付かない銀行預金に積まれるだけ」などと考えてはいけない。
株主は、(少なくともそのお金は)株式市場への投資資金に振り分けているので、インデックス(日経平均やTOPIX)ETF程度のパフォーマンスを上回らなければ企業価値が棄損されたと考えるだろう。
このような観点から考えると、パフォーマンスの悪い会社の株式を経営陣の地位保全のために保有しているのは背任行為に等しい。社内の出世のために海外企業を買い取る場合も、資本の機会費用を上回るパフォーマンスを上げなければならない。
企業の経営陣は、株主から委任を受けて企業を経営し、企業の資金を運用する立場にある。
企業が保有する現金は、委任者である株主から預かったお金なのだ。
コーポレート・ガバナンス・コードが策定され、企業のガバナンスが根本的に変わりつつある。
現金を何に投資しているか、常に株主の目が光っていることを経営者は肝に銘じておかねばならない。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年4月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。