朝日新聞は4月7日付朝刊に「TV統制、日本でも懸念 米地方局、同一文言で一斉メディア批判」という記事を掲載した。メディア企業「シンクレア」傘下の地方テレビ局がトランプ政権のメディア批判をなぞるメッセージを読み上げたことを取り上げ、政府で検討が進む政治的公平を定めた放送法4条の撤廃に牽制球を投げた記事である。
政府に設置された規制改革推進会議で放送改革の議論が進んでいるが、その方針にメディアは反対一色である。毎日新聞は「政治的に偏った番組が放送されることなどが懸念される。」という。東京新聞によれば「放送界や専門家は、偏向報道の増加や、党派色の強い局の登場を懸念する声が強い。」そうだ。これら二紙といつもは意見が違う読売新聞も、3月25日付の社説で「規制が外れれば、放送とは無縁な、金儲(もう)けだけが目的の業者が参入し、暴力や性表現に訴える番組を粗製乱造しかねない。家庭のテレビで、子どもを含めた幅広い人々が目にする恐れがある。」と主張した。
テレビの政党討論番組には、弱小政党も席を並べ発言時間が与えられる。主要政党だけを呼んだほうが議論は深まるかもしれないのに。選挙報道では主要候補の動向に加えて全候補者のリストを最後に流すが、この数秒はほとんど無駄だ。それでも頑張って「サンデーモーニング」のような番組を放送すると、偏向と批判を浴びる。
政治的公平はテレビ局の足を引っ張っている。報道の自由・言論の自由・表現の自由を妨げる放送法第4条撤廃に反対する理由が理解できない。
他にも放送法には理解できない制度がある。地方局を存在させる根拠となっている第91条が一例である。第91条は「基幹放送をすることができる機会をできるだけ多くの者に対し確保することにより、基幹放送による表現の自由ができるだけ多くの者によつて享有されるようにする」という原則を掲げる。
この原則は、マスメディア集中排除原則と呼ばれている。県域ごとに基幹放送の免許を与え、表現の多様性を確保しようというものだ。地方局の経営危機が進む中でキー局が地方局を傘下に収められるようになったが、子会社化できる数には限りがある。
地方局が作る自主制作番組の割合は少ない。多くの地方局では、キー局と同じ番組が9割以上放送されている。00分から始まる番組が54分に終了した後、6分間だけローカルニュースを流すと自主制作番組比率は1割になるのだが、それすらできない地方局がある。「基幹放送をすることができる機会をできるだけ多くの者に対し確保」したはずなのに、それらの者がキー局の番組を放送しているだけというのでは、せっかく機会は利用されていない。
小さな市場のためにテレビ番組制作費を出そうというスポンサーは少ないから、自前の番組作りには限界がある。番組収入が限られれば経営危機は進む。規制改革推進会議には、地方局の存立にかかわる第91条も見直してほしい。今のままでは、停波を余儀なくされる地方局も出てくる恐れがあるからだ。