与党候補がまさかの惜敗:西宮から安倍おろしの風は吹くのか

西宮市長選を僅差で制した石井登志郎氏(Facebookより:編集部)

兵庫県西宮市長選は15日投開票が行われ、元民主党衆議院議員で無所属新人の石井登志郎氏(46)が、自公推薦の元県議、吉岡政和氏(43)ら5人の候補者を破り、激戦を制した。石井氏(37,831票)と吉岡氏(37,723票)はわずか108票差(参照:西宮市選管サイト)。一般的には、兵庫のような都市部の市長選で、これほど僅差での競り合いは珍しい。西宮市長選は、辞職した前市長の過激な言動で、全国の注目度はいくぶん高かったかもしれないが、投票率は37.52%と今回も4割に届かず、総じて地味な選挙だったことには変わりはない。

旧・土井たか子地盤も、近年の衆院選は自民圧勝だった西宮

一般の東京都民からすれば、まったく関わりのない話のように思えるが、政治のプロは、政局の風を読む上で、市議補選レベルのローカルな戦いであっても定点観測は欠かせない。現地の事情通によれば、今回の市長選スタート時は、吉岡氏がリードしていた模様。しかし、6人の候補者の中で昨夏にもっとも早く名乗りを上げ、過去4度の衆院選に出馬した石井氏が地元での知名度をいかして逆転勝ちしたとみえる。今後、与野党の関係者がさまざまな角度から選挙分析を行うとみられる。

選挙区としての西宮市は、かつて故・土井たか子氏(元社会党委員長)の地盤であり、阪神沿線きってのハイソでリベラルな気風が伝統的にあるイメージだ。しかし、社民党の凋落で2003年の衆院選では自民党候補者が勝利。近年は、新市長になる石井氏が、2009年の民主党政権誕生時の衆院選で初当選したことはあったものの、総じて自民党候補者が圧勝していた。

一般論としては、低投票率の地方選挙では、組織力で突出した自公の候補者が有利だ。ただし、西宮市長選は4年前の前回、業界団体などの支援がなかった前市長が、自民、公明、民主に推薦された当時の現職市長を破るなど「波乱」が起きた。

今回の選挙結果について、往年のリベラル気風がまたも強く吹きつけたのか、それとも安倍政権の度重なるスキャンダルが原因でライトな安倍政権支持層がスイングしたのか、検証したいところだ。

滋賀ではダブルスコアで与党陣営惨敗:動揺広がるか

ここで注目したいのが、西宮市長選と同日に投開票された滋賀県近江八幡市長選だ。自公維推薦の現職、冨士谷英正氏(71)が、元衆議院議員の新人、小西理氏(59)にダブルスコアで破れる惨敗を喫した。

小西氏は、かつて自民党の衆議院議員だったが、小泉政権時の郵政民営化に反対して郵政選挙で公認を得られず、無所属で出馬して落選。その後、政界を離れていたが、武村正義氏らの支援を受けて「復活」した。滋賀もまた伝統的にリベラル基盤だが、これが「特殊事情」なのかどうか。ただ、一般的に、与党に推薦された現職首長をダブルスコアで破っての結果というのは滅多にない現象だ。

西宮も近江八幡も、首都圏の有権者にはほとんど見向きもされないかもしれないが、いずれにしろ、関西の与党関係者にとっては衝撃的だったことには違いない。スキャンダルの影響で内閣支持率が続落するなかにあって、来年4月に統一地方選を控える地方議員たちの動揺が広がる可能性もある。

奇しくも西宮には阪神甲子園球場があり、タイガースの凱歌で知られる「六甲おろし」が山側から吹き付ける。かつては台風の影響でポートアイランド沖合の釣り船を転覆させるほど強烈な威力をみせたこともあるという。野党や朝日新聞が願望するように、一連のスキャンダルで安倍首相らの関与は立証されていないとはいえ、政権側は、目下の情勢を押し返す弁解ができてはいない。“安倍おろし”の風が党内から吹き始めたとき、しのぐことができるのか。

個人的には、国会の連日の空転に辟易しているものの、現実の政治情勢としては、安倍政権にとってはさらなる正念場を迎えたのは確かだと思う。