保険業におけるリスクテイクとは何か

企業の経営リスクは、最終的には、自己資本によって吸収される。株主は、企業が自己の本源的リスクテイクを自覚的に遂行すること、そして、そのリスクテイクがリスクに応じた利潤を生むことを前提にして、投資している。企業の本源的リスクテイクは、事業の性質に応じた自己資本の厚みを要求するから、適正なる利潤は、資本の厚みに対する利潤率の問題として、その達成が企業経営者の責務とされるのである。

そして、その経営の責務を果たすためには、更に、本源的リスクに付随するリスクについて、資本に非効率な負荷がかからないように、適正に制御することが必要であり、また、本源的リスクテイクからの逸脱がないように、経営理念が揺らぐことなく貫徹していることが求められるのである。

さて、保険にとって、本源的なリスクテイクは何か。一つの方向には、保険のリスクそのものを本源的リスクテイクの対象とし、資産運用にかかわるリスクを付随リスクとして厳格な制御下におくという考え方があり、他の方向には、資産運用にかかわるリスクを本源的リスクテイクの対象に位置付ける考え方もあり得る。

保険の特性として、保険固有リスクは、経営能力によってというよりも、確率統計的に制御されていることからすれば、保険固有リスクを本源的リスクテイクの対象とし、資産運用にかかわるリスクを中立化してしまうと、そもそも、収益事業としての保険がなりたつかという究極の問いに突き当たる。

仮に、保険の引受自体に固有の事業性がないとすれば、保険の事業性は、保険を利用する顧客の視点にたった総合的リスクマネジメント代行業に存すると考えるほかはない。実際、それが世界の潮流であろう。

他方、資産運用に本源的リスクテイクを見出すならば、自己の保険債務特性を活かした独自の運用戦略を開発し、そこに、自己資本や人的資源などの経営資源を配置することは不可欠である。

今、日本の保険会社に求められていることは、どちらにしても、そうした本源的リスクテイクの自覚的な再構築なのであり、それに対応した経営資源の再配置なのである。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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