柳瀬氏、「参考人招致」ではなく「証人喚問」が不可欠な理由

郷原 信郎

衆議院インターネット中継より:編集部

4月10日に、中村時広愛媛県知事が、今治市への加計学園獣医学部設置に関する愛媛県、今治市職員、加計学園関係者と、柳瀬唯夫総理秘書官(当時)との総理官邸で面談記録の存在を認めたことに加え、4月13日に、面談記録が、政府内部(農水省)でも発見されたことで、2015年4月2日の首相官邸で面談が行われたことは、否定し難い事実となりつつある。しかし、一方の柳瀬氏は、「自分の記憶の限りでは、愛媛県や今治市の方にお会いしたことはありません。」と面談の事実を否定するコメントを維持している。

野党側は国会での柳瀬氏の証人喚問を求め、与党側は参考人招致に応じる方針のようだが、ここで重要なことは、現時点で「唯一の証拠」である愛媛県職員作成の面談記録について、判明している周辺の事情も含めて、客観的に証拠評価を行い、面談記録からどのような事実が認定できるかを検討することである。

それによって、面会の事実を否定する柳瀬氏の虚偽の答弁の疑いの程度が明らかになり、柳瀬氏を証人喚問すべきか、参考人招致でとどめても良いかが自ずと明らかなる。

面談記録自体の信ぴょう性、正確性をどう判断するか

まず、問題となるのは、この面談記録に、虚偽或いは誇張された内容が含まれている可能性がどの程度があるかである。

前回ブログ記事【“安倍王将”は「詰み」まで指し続けるのか】でも述べたように、愛媛県職員が、面談記録に、実際のやり取りとは異なったことを意図的に書く動機は考えられない。

一般的には、行政機関の内部において、他の機関との非公式の会合でのやり取りについて、実際とは異なる内容、歪曲或いは誇張した内容の報告が行われたり、報告文書が作成されたりする可能性はないわけではないが、それは、それなりの「動機」がある場合である。

例えば、当該職員が担当している事項について、何らかの問題を起こし、責任を問われかねない状況で、他者との会談の内容の中で、自らの責任に言及する部分を削除したり、ぼかしたりすること、逆に、担当者自身が自らの実績をアピールするために、相手方の言葉を誇張して表現することなどが考えられる。問題は、面談記録を作成した愛媛県職員の側に事実を歪曲したり誇張したりする動機があるかどうかだ

また、面談記録の作成過程で、発言者の意図が正確に伝わっていなかったり、或いは、作成者の思い込みで、発言者の意図とは異なることが記載されたりすることはあり得る。今回の面談記録のように、要点を要約した文書の場合、話の順番が、記録のとおりだったとは限らないし、実際の発言と記録の記載が、言葉の表現まで厳密に同じであったかどうかはわからない。面談記録の正確性の程度は、文言の具体性、特異性、前後の文脈との関係等から、個別に判断するしかない。

「本件は、首相案件となっており」

面談記録の中の柳瀬氏の発言の冒頭は、

本件は、首相案件となっており、内閣府藤原次長の公式のヒアリングを受けるという形で進めていただきたい。

と記載されている。加計学園問題を追及してきた朝日新聞などのメディアや野党が、この「本件は、首相案件」という言葉が、首相の「指示」ないし「意向」による案件であることを意味しているとして「加計ありき」の根拠とするのに対して、安倍首相支持派・擁護派からは、「安倍首相が主導して導入し、しかも、諮問会議の議長を務める『国家戦略特区』という規制改革の枠組みのことを意味するもので、それ自体、首相の関与を示すものではない」との反論が行われている(【「首相案件」の何が“違法”なのか?野党は140字で説明してね】など)。

「本件は、首相案件となっており」という抽象的な言葉だけからは、いずれの解釈が正しいかを即断はできない。それに続く「内閣府藤原次長の公式のヒアリングを受ける」は、国家戦略特区諮問会議の事務局を務めていた藤原豊内閣府地方創生推進室次長の「公式のヒアリングを受ける」という意味に解されるので、「国家戦略特区で進めていくこと」を意味しているようにも思える。

しかし、面談の時点では、まだ今治市での獣医学部新設について国家戦略特区の申請は行われておらず、「首相案件となっており」というのが「国家戦略特区案件になっており」ということは客観的にありえないことからすると、「首相案件=国家戦略特区」という解釈には無理がある。

問題は、それに続く

国家戦略特区でいくか、構造改革特区でいくかはテクニカルな問題であり、要望が実現するのであればどちらでもいいと思う。現在、国家戦略特区の方が勢いがある。

という記載だ。

柳瀬氏は、「国家戦略特区でいくか、構造改革特区でいくかは」「どちらでもいい」と言っているということであり、これからすると、「首相案件」が「国家戦略特区」の意味ではないことは明白だ。

そこでの「本件」は、まさしく、「加計学園が今治市で獣医学部を新設しようとしている案件」のことであり、その要望を実現することが「首相案件」になっているからこそ、「総理秘書官の自分が、こうして対応している」という意味だと考えるのが自然だ。

「やらされモード」「死ぬほど」

面談記録の中で最も注目すべき点は、柳瀬氏の発言内容として、

いずれにしても、自治体がやらされモードではなく、死ぬほど実現したいという意識を持つことが最低条件。

と記載されていることである。

「やらされモード」という言葉は、柳瀬氏が、自治体側の消極的姿勢への懸念を示した印象的なフレーズだ。その「自治体」の愛媛県側にとっては、若干耳の痛い言葉であり、言われてもいないのに、そのような言葉を面談記録に記載することは考えにくい。総理大臣秘書官から、愛媛県側の消極的姿勢について、「やらされモード」という言葉で懸念を示されたことを県の上層部に報告するため、発言を正確に記載した可能性が高い。

「死ぬほど実現したいという意識を持つことが最低条件」の「死ぬほど」という言葉も、非常に強い言葉であり、印象的な表現だ。発言者がそのような言葉を使っていないのに、愛媛県側が勝手に面談記録に書くとは考えにくい。

要するに、柳瀬氏は、「やらされモード」「死ぬほど」というやや強いイメージの言葉を使って、「愛媛県が積極的に動くことが必要だ」と言っていたと思われる。少なくとも、「加計学園が獣医学部を新設する」という「本件」に対して、愛媛県よりむしろ、柳瀬秘書官の姿勢の方が積極的だったことになる。それらからすると、「首相案件」ということの意味は、「首相官邸が積極的に関わるべき案件」あるいは、「首相が関わっている特別な案件」という意味だと考えるのが自然だ。

獣医学部新設に対する愛媛県の姿勢

今治市での獣医学部新設に対する愛媛県の姿勢が、必ずしも積極的ではなく、柳瀬秘書官が「やらされモード」を懸念するようなものであったことは、その後の、国家戦略特区への提案や申請に対する愛媛県の動きとも合致する。

面談記録の中には、内閣府の藤原次長から、

今年度から構造改革特区と国家戦略特区を一体的に取り扱うこととし、年2回の募集を予定しており、遅くとも5月の連休明けには1回目の募集を開始。

ついては、ポイントを絞ってインパクトのある形で、2、3枚程度の提案書案を作成いただき、早い段階で相談されたい。

提案内容は、獣医大学だけでいくか、関連分野も含めるかは、県・市の判断によるが、幅広い方が熱意を感じる。

獣医師会等と真っ向勝負にならないよう、既存の獣医学部と異なる特徴、例えば、公務員獣医師や産業獣医師の養成などのカリキュラムの工夫や、養殖魚病対応に加え、ペット獣医師を増やさないような卒後の見通しなどもしっかり書きこんでほしい。

などの助言を受けたことと、それを受けて、柳瀬氏も同様の助言をしたことが記載されている。

愛媛県と今治市は、忠実にその助言に対応し、獣医学部の新設を、それまでの「構造改革特区」から「国家戦略特区」に切り替え、2015年6月に入って特区申請を行い、6月5日に、国家戦略特区ワーキンググループの提案者ヒアリングに臨んでいる(【提案書】【配布資料】【議事録】)。面談記録に記載された藤原次長の助言と比較すると、ほぼ忠実に助言どおりに対応していることがわかる【(東京)「加計」愛媛県文書 獣医学部15年4月「出発点」 柳瀬氏らの助言通り次々】。

しかし、愛媛県と今治市の「共同提案」とされているが、愛媛県からの提案は何もない。獣医学部新設以外の「関連分野」として、今治市の側で「水産物・食品の輸出ワンストップ支援センターの設置」という今治市の提案を付け加えているだけだ。

その半年後の同年12月10日、再度、提案者ヒアリングが行われ、追加提案が付け加えられて、《「しまなみ海道」と「今治新都市」を中核とした「国際観光・スポーツ拠点」の形成》にという地域を拡大したテーマに変更され、獣医学部新設は、その中の一つの提案に位置づけた。

6月5日の提案者ヒアリングは、愛媛県が中心となっており、提案内容の説明も愛媛県の局長が行っているが、12月10日のヒアリングでは、愛媛県の局長は、冒頭の概要説明だけで、具体的な説明は今治市の課長が行っている。

そして、その5日後の12月15日の国家戦略特区諮問会議では、提案者が、「広島県・今治市」となり、その時点で、愛媛県は、国家戦略特区の提案者の立場から完全に外れているのである。

この流れからして、獣医学部新設に熱意を持って取り組んでいたのは今治市であり、愛媛県は、その今治市に「付き合わされて」協力している立場だったことが推測できる。

その背景に、愛媛県と今治市、加計学園との間の獣医学部新設に対する姿勢の違いがあったものと考えられる。加戸守一前知事が、知事時代に今治市と共同して進めた新都市整備事業が「今治新都市事業」だったが、そこで予定していた学園都市構想は実現しておらず、土地が宙に浮いた状態だった。加戸前知事は、今治市の商工会議所特別顧問という立場で、同市への獣医学部新設に強い熱意を持って取り組んでおり、県の政策の一貫性という面からは、中村知事になってからの愛媛県としても、加戸前知事時代に始めた獣医学部誘致を表向きは推進せざるを得なかった。しかし、県も負担を約束していた30億円を超える補助金の支出が、獣医学部新設が愛媛県全体にもたらす経済効果に見合うものであるか否かを疑問視する声もあり、愛媛県としては、加計学園関係者や今治市側と比較すると、獣医学部新設にさほど積極的ではなかったというのが実情だったはずだ。

柳瀬氏も、そのような愛媛県のやや後ろ向きの姿勢を感じたからこそ、「やらされ感」「死ぬほど」などという言葉を使って、愛媛県側に気合を入れようとした可能性がある。そういう意味で、柳瀬氏の発言としてこれらの言葉は、獣医学部新設に向けての愛媛県の微妙な姿勢とも合致しているのである。

面談記録の信ぴょう性、正確性と加計問題の事実解明

中村知事が、備忘録として県で保管していたものと認めていること、同様の文書が農水省で発見されたことに加え、面談記録中の「やらされ感」「死ぬほど実現したい」などの柳瀬氏発言や、それが、当時の愛媛県の立場やその後の対応とも合致していることなどからすると、面談記録は、十分に信用できるものと考えられる。

これについて、【高橋洋一氏】は、

こうした「応接録」の場合、記載されている相手方の確認や了解がない場合、往々にして書き手の都合の良いように書かれることがしばしばである。そのため、その内容を鵜呑みにするのは危険なのだ。

などと言っているが、全く論外だ。獣医学部新設をめざす当事者的立場の今治市職員や加計学園関係者であればともかく、愛媛県職員にとって、獣医学部面談の内容を誇張したり、歪曲したりする必要は全くない。霞が関の官僚の間では、そのような「誇張」や「歪曲」がしばしば行われるというのが高橋氏の「経験則」なのかもしれないが、少なくとも、今回の面談記録を作成した愛媛県職員には当てはまらない話だ。。

総理官邸での愛媛県、今治市、加計学園関係者と柳瀬総理秘書官との面談の際、面談記録に記載されたやり取りがあり、そこで、柳瀬氏が、愛媛県側に対して積極的な対応を求めるなどしたことはほぼ間違いないものと思われる。

そこで、問題は、そのような総理官邸での面談がいかなる経緯で実現したのかである。地方自治体職員と一私立大学の関係者が、総理官邸で総理秘書官と面談し、それまで50年間、認められていなかった獣医学部新設について助言を受けるということは、通常はあり得ないことだ。それが実現した経過に、安倍首相自身の指示があったのか、柳瀬氏と同じ経産省出身の筆頭秘書官の今井尚也氏からの指示があったのかが、まさに加計学園問題の核心である。

柳瀬氏の「証人喚問」が不可欠である

その点について真相を語ることができるのが柳瀬氏なのであるが、これまでは、「記憶している限りでは、お会いしたことはない」と言い続けている。

しかし、面談記録中の「やらされモード」「死ぬほど」などという言葉は実際の柳瀬氏の発言である可能性が極めて高く、そのような言葉まで使っていることからすると、柳瀬氏にとっても、「本件」は相当重要な案件だったはずだ。その「面会の記憶」が全くないということはあり得ないであろう。しかも、日米首脳会談のため訪米する安倍首相に同行する仕事ができるのであるから、病的な「記憶障害」の可能性もないはずだ。「会った記憶がない」との柳瀬氏のコメントは到底信用できない。

柳瀬氏について、「参考人招致」という話も出ているようだが、既に、昨年7月の国会の閉会中審査で参考人招致は行っており、しかも、今回の面談記録の内容が公表された後も、柳瀬氏は閉会中審査での答弁と同様の内容のコメントを出して、面会の事実を否定している。このような場合に、重ねて参考人として話を聞く意味は全くない。また、違法行為や犯罪を行ったわけではないことが、柳瀬氏の証人喚問を否定する理由にならないことは言うまでもない。証人喚問は、国政上重要な事項についての国会の国政調査権の重要な手段であり、それは、違法行為や犯罪の責任を追及する手続では決してない(【国会での証人喚問は「犯罪捜査のため」という暴論】)。

違法行為や犯罪については、現行法上「刑事免責」の制度がない以上(【「刑事免責」導入で文書改ざん問題の真相解明を】)、佐川氏の証人喚問がそうであったように、肝心な点は、「刑事訴追を受けるおそれがある」として証言拒否され、ほとんど意味がない。むしろ、証言を求める事項が犯罪に該当するわけではないが、国政に関する重要な事項について参考人としての供述が他の証拠と相反していて、その信用性に重大な疑念が生じている今回の柳瀬氏のような場合にこそ、偽証や証言拒否に対して罰則の制裁がある証人喚問で真実の証言を求めることが不可欠だと言えるのである。

柳瀬氏は、「参考人招致」ではなく「証人喚問」することが不可欠だ。

佐川氏の場合と違い、柳瀬氏は、「刑事訴追を受けるおそれ」で証言を拒絶することはできない。証言拒否や偽証に対して刑罰の制裁がある証人喚問になった時に、柳瀬氏は、「面談の記憶がない」との証言を維持できるであろうか。偽証の制裁を覚悟してまで、面談の経緯に至った経緯についての真実を秘匿する姿勢を取り続けるのであろうか。


編集部より:このブログは「郷原信郎が斬る」2018年4月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、こちらをご覧ください。