パワハラ上司に読ませたい、言葉の大切さがわかる本

写真左が高垣さん。法人活動イベントにて撮影。

厚労省(自殺対策白書)によれば、2016年に自殺した人は、21,897人となり、22年ぶりに22,000人を下回ったことが明らかになった。年代別では15~39歳の死因第1位は「自殺」である(40歳以上、死因1位は悪性新生物)。15~39歳の死因第1位「自殺」は、先進国では日本のみで見られる現象であることから対策が急がれる。

従来から、若者の自殺率の高さは指摘されていた。調査結果からは、若者の自殺以外に中高年の自殺も顕著であることがわかった。今回紹介するのは『崖っぷちの人生から奇跡を起こした幸せになる方法』(セルバ出版)。著者は、髙垣千恵さん。障害福祉サービス、介護保険サービスを提供する介護事業所を運営している。

人間関係にパラダイスはない

――いま、多くの人が仕事の不満や悩みに苦しんでいる。「上司とうまくいかない」「仕事が上手にできない」。不満や悩みでうつになる人や自殺を選ぶ人もいる。

「あらゆる現場を体験してきましたが、人間関係にパラダイスを求めること自体が無理な要求です。つき合いやすい上司といっても、それは自分にとってつき合いやすい上司に過ぎません。世の中はもともとそのようにはできていませんし、また、やりやすい仕事といっても、それは自分にとってやりやすい仕事に過ぎません。」(髙垣さん)

「お金を稼ぐ、働くということは厳しいのが当たり前なのです。ご飯も食べられる。住む家もある。そんな幸せをもう一度、考えてください。どんなことでも乗り越えていけるはずです。これから私のエピソードをご紹介します。」(同)

――高垣さんは、山口県下関市に一家の長女として生まれる。高校卒業後、京都の看護学校へ入学。そのまま看護師となった。その後、結婚~妊娠をし出産を迎えることになる。

「出産は里帰りをして、地元の病院で行いました。ところが、自然分娩でなかなか赤ちゃんが出てきません。頭が途中でひっかかり、赤ちゃんの心拍数が落ちてきました。早く出さないと死んでしまいます。このような場合、自然分娩では危険だとわかった段階で帝王切開に切り替えます。骨盤不適合は事前にわかっていました。」(髙垣さん)

「赤ちゃんの頭を引っ張り出しすぐに気管挿管の処置をしました。助かったのが不思議なくらいの状態でした。こうして生まれた長男・翔平は1か月NICU(新生児集中治療室)に入っていました。命は助かりましたが、重い障害が残りました。」(同)

――京都に急いで帰って来て大きな病院の専門医にかかったものの、子どもの状態は良くならない。人生の路頭に迷っていたときに、ある病院と出会うことになる。

「聖ヨゼフ整肢園(聖ヨゼフ医療福祉センター)です。病院に巡り合ったとき、ひと筋の光が見えてきました。通常なら、発達が見込めないのはわかります。私も看護師ですからそれは理解しています。でも、先生はそれでも『頑張ったら歩けるようになるかもしれない』『そのための訓練をやりましょう』と言ってくださいました。」(髙垣さん)

「病院の看護師さんは『この子は、これから、歩くことも、自分で食べることも、話すこともできないかもしれない。この子にたった1つだけできることがある。それは、お母さんの笑顔を覚えて、笑顔の素敵な人になることです』と声をかけてくれました。」(同)

――さらに、高垣さんは看護師のプロ意識が高かったと語る。「今までよく頑張ってきましたね。今度は私たちが頑張る番です。私たちはプロです。どんなに障害が重くても、大丈夫です。私たちに任せてください」。現在では、国の制度として、障害児にもヘルパー派遣が認められ、障害児の学童保育も始まったが、当時は簡単ではなかった。

言葉の影響力を理解する

「長男・翔平は今、和歌山病院の最重度の障害者の部屋に入院しています。入院当初は吸引器や注入の器具などを持って、一緒に温泉にお泊りしていました。でも、現在はたくさんのチューブにつながれ、もう一歩も病院から出ることはできません。それでも、翔平の笑顔は最高に素敵で、一生懸命に生きています。」(髙垣さん)

「我が子を見ていると、今の自分は何でもできる、些細なトラブルや悩んでいる出来事など、何でもないことだと思えてきます。『できることが必ずある。もっとできることが必ずあるはずだ』『翔平は無言で私に語りかけてきます。自分で死ぬこともできない翔平は、それでも命のある限り私に生きる意味を、尊さを教えてくれる存在なのです。」(同)

――昔から、言葉の影響力は歴史すら変えてきた。言葉は魔術やナイフと同じと言われることがある。人は言葉の影響を受ける。言葉により、喜怒哀楽を感じ、時には喜びの美酒に酔い、時にはショックを受ける。だから言葉を重視しなければいけない。言葉が暴力にもなり良薬にもなることを理解しなければいけない。

厚生労働省「人口動態調査」の集計によれば、1年でもっとも自殺者が多いのは、夏休み終了時、年度末に続いて5月が多い。GW明けは自殺が急増する時期でもある。どうも体調おかしい。そのように感じたら自らを客観視してもらいたい。「生きる」「命の尊さ」とはどういうことか。大切なことを気付かせてくれる一冊である。

尾藤克之
コラムニスト