標記の記事が、7日の毎日新聞に掲載された。内容は「内閣府が今年度から5カ年で行う「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」第2期事業で、研究開発課題の責任者を公募したにもかかわらず、実際は事前に候補者を決め、各課題の詳しい内容を伝えていた。12課題のうち10課題で候補者がそのまま選ばれ、うち9課題は候補者1人しか応募がなかった。」とあった。
私が、名指しで、事前候補者と異なっていた一人であると記事に掲載されていた。まさに、「和をもって尊しとなさず」を地で行く行為になってしまっている。しかし、応募すれば、公正に評価されるという証にもなっている。採用後に知った「上記にある課題の詳しい内容」と「私がヒアリングの際に提案した内容」は、もちろん重複はあるが、異なっている部分がある。私の提案は、「人工知能によって、医師が患者さんと面と向かって話ができる時間を確保すること」や「人工知能が、病気のことや治療方針・治療法・治療薬をわかりやすく双方向で説明して、医療従事者の負担を軽減する」ことが柱の一つである。
特に、先端的な医療を推進するには、医療従事者を大幅に増やすか、人工知能でその部分をカバーするしかない。現状を考えれば、後者を優先するしかない。ますます複雑になっていく医療の仕組みを考えた対策がないと、医療現場はさらに疲弊していく。病理診断や画像診断も、人工知能がカバーできれば、何処に住んでいても、同じレベルの診断にアクセスできるはずだ。白か黒か判別が難しい場合には、グレーゾーンを設けておき、それらに関しては専門家の意見・判断を聞く形にできればいいと思う。
病理診断や画像診断をする診断医の頭にある緻密なアルゴリズムを人工知能に組み込み、それをさらに学習させる事によって、優秀な診断型人工知能が開発できるはずだ。将棋や囲碁でも名人レベルの人工知能があるのだから、膨大な量の正しい情報をインプットできれば、できないはずがないと思うのだが?専門医から、お叱りの声が飛んできそうだ。しかし、将棋や囲碁でも十年ほど前まで、人間に勝てないと言われていたが、今はそうではないのだから、できると信じたい。
これまでも触れているように、医療・介護供給体制の抜本的な改革がなければ、日本の医療制度そのものの維持が難しくなっているのは歴然としている。国家財政の観点から、医療費の膨張は抑制しなければならないが、それは医療の質の維持・向上とセットでなければならない。20世紀型の医療ではなく、21世紀型の健康維持+医療という発想での医療改革が必要なのである。
あと1か月あまりで、シカゴ生活を終える準備で、シカゴに来て一番忙しい日々を送っている。研究室員の研究の取りまとめ、論文の校正、審査された論文の改定、研究室の整理、我が家のあと片付けなど、てんてこ舞いだ。今、オヘア空港にいるが、近くのガリバー・シカゴ店で車を売ってきた。そのあと、ウーバーで空港に送ってもらった。便利な仕組みだ。
これから、シカゴ―日本―シカゴ―メキシコシティー、そしてシカゴと約2週間の出張だ。そして、3週間シカゴにいて、日本に引き上げる。体力との闘いだ。
編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2018年5月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。