弁護士に対する懲戒請求の濫用は実に困ったことだが、なかなか有効な抑止策が見付からない。
中には弁護士が自分の抱えている係争事件を有利に持って行こうとして相手の弁護士に対する懲戒請求を唆す、などというケースもあるようだから、弁護士及び弁護士会として濫訴的懲戒請求の抑止策を検討する必要があることは間違いない。
弁護士会に対していわれのない大量の懲戒請求を受けた若い弁護士たちが一つの対抗策、防御策として濫訴的懲戒請求者に対する訴訟の提起を検討している、という話題がネット上に出回っている。
既に大阪の橋下徹弁護士や北海道の猪野亨弁護士がこの件について言及されているので、私も外野席にいる市井の弁護士として、どなたかの煽り記事に煽られて、弁護士会に対して懲戒請求をしてしまった全国のウッカリさんに一言アドバイスをさせていただく。
懲戒請求をした相手の弁護士から、
「①あなたの懲戒請求は何の理由もない、不当な懲戒請求である。②あなたの懲戒請求で私は大変な迷惑を受けた。③その損害は金銭に換算し難いが、あえて金銭に換算すると○○円を下らない。④したがって、私はあなたに損害賠償請求の訴訟を提起しようと準備しているが、本書到達から○○日以内にあなたから謝罪があり、かつ和解金として○○円の支払いがあれば、和解に応じる用意がある。⑤ついては、本書到達から〇日以内にあなたのお考えをご連絡いただきたい。」
という趣旨の通知を受け取られた方は、まずは知り合いの弁護士に相談されたらいい。
訴訟を経験したことがない一般の方々には訴訟は実に厄介なものだろうから、訴訟を避けたくなるのは当然である。
訴状に「被告」と書かれているのを見て、「被告人」と読み間違る人もいれば、訴えられた、訴えられたと言ってパニックになる人もいる。訴訟の当事者になるのを避けたいのは、誰でも同じこと。
訴訟を抱えて病気になる人もいるくらいだから、何はともあれ訴訟になることを回避しようという判断は正しい。
しかし、だからと言って、和解に応じなければ訴訟を提起するぞ、と通告してくる人の言いなりになってしまうことにもそれなりに問題があるので、ここは冷静に判断した方がいい。
全国の善良なウッカリさんを擁護したり弁護する気はさらさらないのだが、橋下弁護士や猪野弁護士の主張にも一理がある。
訴訟手続きに熟達した弁護士が得意の訴訟手続きを利用して全国の善良なウッカリさんたちに過大な請求をしているのではないか、という懸念があるのは確かだ。
訴訟を提起される可能性がある人が1000人とも4000人とも言われている。
裁判所が間に入れば、必ず裁判所が和解を勧める事案になる。
裁判所が介在しなくても、この問題は和解が相当な案件である。
この数日ネットで話題になったばかりの事件なのでまだ弁護士会としては動いていないようだが、ここは弁護士会の仲介で早急に妥当な解決を図った方がよさそうである。
もっとも最近は先輩の弁護士や弁護士会の役員の言うことにまったく耳を傾けない唯我独尊的で我が道を行くという若い弁護士もそれなりにいるということなので、この件が最終的にどう決着するのかは、私にも分からないが……。
編集部より:この記事は、弁護士・元衆議院議員、早川忠孝氏のブログ 2018年5月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は早川氏の公式ブログ「早川忠孝の一念発起・日々新たに」をご覧ください。